読書感想:運命の人は、嫁の妹でした。

 

 さて、「前世」という単語を聞いて画面の前の読者の皆様は何を思われるであろうか。恐らく画面の前の読者の皆様の中には、この単語を聞いてファンタジー系の内容を思い浮かべられる方も多いであろう。前世という単語が無理なく出てくるのは恐らくそう言う系統の作品の方が多い筈なので。では前世の人間関係は今生ではどう扱うべきなのであろうか。

 

 

前世、そして運命。それこそがこの作品の重要なファクターであり。登場人物達を振り回していく要素なのである。

 

半年前、古い友人の結婚式に行き元嫁と再会、やけ酒で酔いつぶれて不法侵入ぶちかまし。そんな衝撃的な体験から、主人公であるお人よしであること以外は普通な青年、大吾。彼は結婚してから初めて会う、それまでは実際に会わないという「ブラインド婚活」なる方法で彼にとっては「運命の人」と出会い、恋に落ち、結婚までこぎつける。

 

「次に出会ったときは、きっとお嫁さんにして下さいませ」

 

 だがしかし、顔合わせ当日に目の前に現れたのは嫁、の妹である少女、獅子乃(表紙)。家のごたごたで先に獅子乃と一緒に暮らす事となり、少しずつ生活環境を整えていく中。夢と言う形で、二人は前世の記憶を垣間見る。

 

前世、それは1960年代にも関わらず機械技術が発展した平行世界。その世界で出会い、愛し合い。世界が滅びると言う間際になって思いを交わして、告白をしあった。そう、実は本当の運命の相手は獅子乃だったのである。

 

「―――私、大吾さんを寝取ろうと思いますの」

 

獅子乃は知っている。姉である兎羽がどういう思いで大吾と結婚したのかを。彼の事を利用しようとしていると言う事実を自分だけが知るからこそ、姉には譲りたくないと。そう言わんばかりに、獅子乃はしなやかに、迅速に恋を始める。まるで冷酷な肉食獣が獲物を狩るような、戦略に満ちた恋を。

 

『あなたに、運命を乗り越えてほしいだけ』

 

しかし兎羽も黙ってはいない。大吾と獅子乃にも関係のある自身の前世。その残滓に運命に弾かれた負け犬と言われながらも、運命を乗り越えようとする。酷い事をしたのにも関わらず自分を受け入れてくれた大吾の事を手に入れようと、行動を開始する。

 

「いつまでも勿体つけるのが悪いのよ。のんびり屋の王子様」

 

だが、彼女の前で大吾と獅子乃の距離は近づいていく。まるで前世からの縁、宿業に導かれるかのように。前世の記憶がよみがえり、思慕も後悔も取り戻していく。その思いに導かれ背を蹴飛ばされるかのように。約束が運命へと導いていくのである。

 

正に設定の妙、よく作られたと感嘆する程の組み合わせが唯一無二を生み出しているこの作品。甘いだけでは嫌な読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

運命の人は、嫁の妹でした。 (電撃文庫) | 逢縁奇演, ちひろ 綺華 |本 | 通販 | Amazon