読書感想:フルメタル・パニック! Family

 

 さて、時に画面の前の読者の皆様はご存じであろうか。幾多の火種がくすぶる世界で、世界と言う水面に波紋を起こす石が落ちる前に食い止めるべく奔走した彼等の事を。特殊な力を持つ少女を守り抜くべく、戦場育ちの常識を振りかざし余計な混乱を巻き起こしながらも、幾多の戦場、世界をあちこち駆け回った傭兵の少年の事を。そう、相良宗介(表紙左)の事である。彼を主役にしたラノベ、SFアクションの金字塔であり伝説を築き上げたラノベの一つである「フルメタル・パニック!」 私のような往年のラノベ読みには懐かしいかもしれぬその名。 今の時代のラノベ読みからすれば一昔前、かもしれぬ。そんな、あの時代の青春の聖書、そんなシリーズを皆様は読まれた事はあるであろうか。

 

 

読んでいないと言う方、とりあえず今すぐ読んできていただきたい。というか読んでください。それはともかく。本編最終回、世界の改変を目論む悪の組織との決戦を終え、学校の卒業式の日に結ばれた宗介とかなめのカップル。

 

「なんの変哲もない、普通の家族だ」

 

そんな大団円から、作中時間で早くも二十年くらい。あの日子供であった彼等も、今は立派な大人であり。娘の波美(表紙右)と、息子の安斗も生まれ四人家族となった、立派な家族である。

 

だけどまだ、かなめの中に狙われる原因となった力があるのは確かであって、悪の組織も弱体化したとはいえ、まだ残っているのは確かであって。 武器などいらない、といったはず、だけど彼等はまだ狙われる立場であり。 知人たちに迷惑をかける訳にもいかぬので、故郷には戻らず世界各地を転々としながら。 病気への闘病を続けていたかなめが寛解した事により、ようやく四人で過ごせるようになっていた。

 

穏やかな家族の時間、しかしそこに響くのは銃声と爆発音。狙われ続け、追われ続ける。それでも逃げるのではなく、寧ろ戦力を整えて迎撃してやる、と。埼玉の一戸建てから港区のタワマン、鎌倉の邸宅まで。 襲撃犯を何度も迎撃しながら、それでも昔とは違い殺す事もなく。

 

 

「本当にやりたかったことはまったく止まったままだ」

 

「人生は意外なことの連続だな」

 

そんな中でも、ちょっと嬉しい事もある。かつて同じ生徒会に所属していた蓮、そして林水会長閣下との再会。かなめの友人達との女子会。 年を取って変わるものもある。自分には出来ぬ事で無力感に悩む事もある。銃も戦いもいらぬ普通の生き方、働き方を模索してみて、結局自分にはそれしか出来ぬと突き付けられたりもして。

 

 

だけどそれでも、家族として生きていく。時にASでドンパチやったりしながらも、家族で笑顔で過ごしていくのだ。

 

ああ、何と嬉しい事か。この時代にこの作品をまた読めて感想を書けることが何と嬉しい事か。まさに青春の挽歌、あの日の面白さが新たな彩を加えてここにあるのだ。

 

かつて楽しまれた方、あの日の熱と面白さをもう一度と言う方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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