読書感想:セピア×セパレート 復活停止

 

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様にお聞きしたいのであるが、皆様初めて持たれたケータイはスマホだっただろうか、ガラケーだったであろうか。最近の世代である読者様であれば、スマホが最初であったかもしれない。因みに私はガラケーが最初である。それはともかく。例えば十年前くらいと比べてみて、スマホの性能はどんどんと向上してきていると皆様は思われないであろうか。

 

 

 

技術の世界は日進月歩。どんどんと電子機器の便利さは進化している訳であるが。人間はその技術に触れていく中で自然とその技術に適合し、いつの間にか生活の一部としてきた訳である。では技術の進歩がどんどん進んでいけば行きつく先はどこなのか。その一つの果てが描かれるのが今作品なのだ。

 

スマートデバイスがユーザーの求めに応じて進化を続け、その果てにスマートバッズという、イヤホン一つに最新型スマートフォン以上のスペックを持つデバイスが開発され。多くのスマートデバイスが過去のものになり、バッズの製作者達が基本ソフトを公式アプリもろとも無償で公開、改変できるようにした事で、爆発的に市場を拡大させる中。当時小学六年生の少年、晴壱はITジャーナリストであった父親のIDを使いバッズの開発元のオンラインカンファレンスに参加し。そこでバッズの開発者の一人であるセピア(表紙左)に、見つけ出したソースコードの無駄を指摘した事で。常人には気づかぬそれに気づいた事で、彼女から興味を持たれる事となる。

 

ライトスタッフ。正しいエンジニアの資質よ」

 

憧れの人から褒められて、だけど彼女が報酬として出したプライベートでの面会は叶う事はなく。その先、セピアは消え、ギズモという更に進化したデバイスが生まれ。3Dバイオプリンターの誕生により、肉体も記憶も再生可能となった事で人間は不慮の死すら克服した2030年代。大人となった晴壱は、かつてのバッズの開発元でエンジニアとして働いていた。

 

人体の復元、という仕事に励む中。社長に直談判した、異動の申し出が受け入れられ。嬉しさに舞い上がるその中、突然意識が暗転し。気が付けば自分の肉体は復元されるところで。しかし不思議な事に自動的にバックアップされている筈の記憶が欠落しており、やってきた保険調査員、空から告げられたのは、どう見てもそんな場所で死ぬはずがない自殺らしき自分の死、そして自身の手で記憶バックアップを遮断していたという話。

 

訳も分からぬまま、更に巻き起こるのはギズモとクラウドの同期の強制解除。それ即ち復元不可能、死がそのまま死となると言うこと。何故かその容疑者として手配されてしまう中、空と手を組む事となり。彼女のアングラな肉体の予備(表紙右)に乗り換え、事件の真実を探る事となる。

 

さて、先に言ってしまえばこの作品。ここからジェットコースターが如き怒涛の展開であり、謎を解いていくと言う事は、真相解明に挑むと言う事である。という事でこれ以上語るとネタバレになってしまうので、ここからはヒントと要点だけ語りたい。

 

それは、突然消えたセピアの真実。何故彼女が消えたのか、それは彼女自身の正体にも関わるもの。だけど彼女は最初から、晴壱の傍に居て。

 

そしてギズモに隠されていた真実、それは進化と便利化の果て、どうなってしまうのか、という事。それは進化、であるのかもしれない。だけどそれは、人間としての進化とは言えないのかもしれない。

 

「ああ、完全に同意だ。あのシステムはクソだ」

 

そしてそれは、技術屋にとっては許せないもの。だからこそぶっ壊す為に、託されて立ち上がるのである。

 

正しくジェットコースターのように急転直下、二転三転する物語の中に骨太なSFが光っているこの作品。 骨太なSFが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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