読書感想:凶乱令嬢ニア・リストン1 病弱令嬢に転生した神殺しの武人の華麗なる無双録

 

 さて、画面の前の読者の皆様は「病弱なヒロイン」と聞いてどんなヒロインを思い浮かべられるであろうか。「古河渚」、と答えられた読者の皆様、是非私と握手をしましょう。同好の士として。「半分の月がのぼる空」、という作品を思い浮かべられた読者様、是非にその感性を大切にしていただきたい。知らないと言う読者様、前述の二作品をすぐにでも履修していただきたい。と、言うのはともかく「病弱ヒロイン」というのは、はかなげな独特の魅力をもっているものであるが、最近の病弱ヒロインは、ただ儚げという訳でもないらしい。

 

 

それこそがこの作品における主人公、ニア(表紙)である。彼女の足元に広がる血は、決して吐血したという訳ではない。それは彼女自身が敵に流させた血である。しかし病弱な彼女がどう敵に血を流させたと言うのか。

 

 それは病魔に追い詰められ死の淵にあった彼女に、彼女の両親に依頼された魔術師による魔術で別人の魂が詰められたから。その魂と言うのは、過去に戦いの中に生き、神殺しすら成し遂げた最強の武人の魂だったのである。

 

「―――私じゃ、なければ、死んでいた」

 

「―――初手で殺すべきだった。言っておくが、もうあなたに勝機はない」

 

そんな武人にとって、病魔程度は別に勝てない相手でもなく。前世で身に着けていた「気」の力を用いる事で、少しずつ病魔に反撃をし、根絶する事を誰にも知られずに成し遂げていく。

 

彼女は戦いに飢えている。胸躍り焦がすかのような死闘を求めている。だがそれは、まだ彼女には早い。それもまた仕方のない事だ。何故なら彼女は病弱という事もあり、過保護と言えるまでに溺愛されて育てられているから。専属の侍女であるリノキスの監督の目もあり、中々に知見を広げられなかったのである。

 

だが、好機はすぐにやってくる。ニアの実家では普及しているものの、未だ多くの人には普及していない「魔法映像」と「魔晶板」と呼ばれる技術。現代世界で言うのならテレビ番組のような技術を広めるために、看板としてニアが選ばれ。是非もなくとその機会に飛びつき、様々なお仕事場を訪ねたり、女優としてデビューしたり。今までの機会を取り戻すかのように、彼女は社会に出て行く。

 

「ほらほら! 早く構えないと蹂躙するわよ!」

 

「私に刺客を向けるなら、もうちょっと強い人を寄越してよ」

 

その彼女を狙い毒牙を伸ばすのは、王都に潜む悪党たち。だが数百分の一しか力を出せぬとは言え、神殺しの力を持つニアのお眼鏡に適う武は無く。今は我慢と、欲求不満を飲み込んで。彼女は良心を傷めずに済む相手を嬉々として制圧していくのだ。後の世に着けられる「凶乱令嬢」という異名の通りに。

 

地固めをしつつも、暴力の気配が一抹の爽快感を持っているこの作品。ぶっ飛んだ主人公が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

凶乱令嬢ニア・リストン 1 病弱令嬢に転生した神殺しの武人の華麗なる無双録 (HJ文庫 み 07-01-01) | 南野海風, 磁石 |本 | 通販 | Amazon