読書感想:探偵に推理をさせないでください。最悪の場合、世界が滅びる可能性がございますので。

 

 さて、銃をぶっ放す探偵が居れば、犯人と大立ち回りを繰り広げる探偵もいる訳で。最近ミステリを冠するラノベが増え始めているが、それにともない探偵と言う人種にも様々な種類が出始めてきているのは私だけだろうか。と、まぁそんな事はさておき。この作品、探偵に推理を差せないで下さいとあるが一体、どういう事なのか?

 

 

 

頓珍漢な推理で引っかき回す、ありがた迷惑なタイプなのか? と、言ってしまえばまぁ、そういうタイプになるのだろうか。しかし、この作品のヒロインであり「本格的名探偵」、理耶(表紙)の推理は、推理の仮定はまぁ、まともである。ただ、その結論が急に斜め上どころか大気圏の上に吹っ飛んでいくタイプであり。その推理が結果として混乱を引き起こすタイプなのである。

 

「君は本格派かな? それとも変格派かな?」

 

そんな彼女に目を付けられたのは、小さなころから名探偵が好きであり本格探偵小説しか読まぬミステリマニアの少年、幸太。彼の本格的ミステリの定義を聞いて満足した彼女は一方的に彼を助手に指名し。まず初めに事務所を探して、地下の事務員室に巡り合い。そこを拠点に定めた途端、様々な助手がいきなり集ってくる。

 

事務員室に住み着いていたダウナー系ナースなふゆ。 目隠し系小学生のイリス。世界有数の財閥企業の一人娘であり、時々二重人格らしい一面を見せる姫咲。その従者である雨名。五人の助手を迎え、「本格の研究」なる非公式団体を結成し。早速持ち込まれた屋上で起きた墜落死事件、という不可解な事件に立ち向かう事となる。

 

「君はハルピュイアという存在を知ってるかな」

 

被疑者に話を聞き、現場検証もして。理耶が導きだしたのはハルピュイア、架空の怪物による犯行。無論、何を言っているのかと周囲の失笑を招き。代わりに推理し犯人を当てた幸太に、犯人は理耶に迷探偵と言う評価を突き付ける。

 

「・・・・・・え、これって夢?」

 

 が、しかしその日の夜。幸太が目撃したのは決して存在しえぬ筈の怪物、ハルピュイア。混乱の最中、姫咲に言えに招かれ彼はそこで、まるでラノベみたいな話を聞く事となる。それはゆゆ、姫咲、イリス、雨名の四人がそれぞれ異能力者であり、そんな者達が集う組織の一員として、「名探偵は間違えない」という能力を持っている理耶を監視しているという事。

 

名探偵は間違えない、その推理は正解である。それは何故か、何故ならばその当てた真実が世界を歪め、どんな不条理すらも実現してしまうから。そして幸か不幸か、理耶自身はそれを知らず覚えてもいない。 割と噛み砕いて言うとあの涼宮ハルヒの能力に近い、しかし迷探偵には絶対に持たせてはいけぬこの力。もうお分かりであろう。そんな彼女が推理をしたら、最悪世界が滅びると言う事が。

 

だからこそ、幸太は推理をし、理耶が世界を歪めて呼び出した不条理を姫咲たちが片付ける。 しかし、名探偵の行くところに事件があるのか。彼等の行く先々、まるで運命が導くかのように殺人事件が勃発し。理耶の天災的名推理が、止める間もなく冴え渡る。

 

ある時は八岐大蛇という神話の怪物だったり。またある時は、神様と言う概念であったり。

 

「だったら推理をしてみようぜ、理耶」

 

巻き起こる天災、その危機を終わらせるのは何か? それこそは推理の力。物語に仕立てて動機を解き明かし、その推理でルールを捻じ曲げ不条理を殺す力に変えるのだ。

 

 

涼宮ハルヒのようだ、と誰かが言った。なるほど思ったより、あの作品の因子を感じる。あの作品を探偵と言う味で搦めて、現代風の要素で味付けして。その後でいい意味にカオスに仕立て上げている。推理ものとして一風変わっているかもしれないけれど。それでもクセになる味があるのは確かである。

 

好きを詰め込んだ混沌とした面白さを見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 探偵に推理をさせないでください。最悪の場合、世界が滅びる可能性がございますので。 (MF文庫J) : 夜方 宵, 美和野 らぐ: 本