読書感想:また殺されてしまったのですね、探偵様

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 さて、「犬も歩けば棒に当たる」という諺があるけれど、この場合は関係ないかもしれない。だが「探偵は歩くと事件に当たる」と言っても過言ではないのかもしれない。画面の前の読者の皆様の中で名探偵コナンシリーズや金田一少年の事件簿シリーズをご覧になられたことのある読者様であればお分かりであろう。ストーリーの構成上仕方のない事かもしれないが、探偵と呼ばれる彼等が街を歩いただけで何かしらの事件に遭遇するし、旅行なんて行こうものなら殺人事件に遭遇する。探偵の周りで、事件と言うものは付き物なのである。

 

 

が、しかし。そういうのは割と創作の世界の中だけでの出来事であり、実際には探偵というものは殺人事件の解決に関わらないものである。

 

 だがしかし、この作品の主人公、朔也(表紙下)は普通の事件の調査に行ったはずが何の因果か殺人事件に遭遇する。それも推理側ではなく、始まりは被害者側として。

 

実際に表紙を見てみると、既にもう死んでいる。だが安心してほしい。彼は何故か生き返る。どんな死に方をしても、どんなに痛くても、何故か生き返るのである。

 

そんな異能を持ちながらも、助手であるリリテア(表紙上)と共に今日も半人前の探偵として推理と調査に励む日々。

 

 が、しかし。そんな日々はある日、唐突に終わりを告げる。浮気調査のために乗り込んだ豪華客船、「クィーン・アイリィ号」に旅客機が落下してきた事により。

 

その飛行機はハイジャックされていた。そしてその乗客の中に一人、朔也の大切な人がいた。その名は断也。「不死の探偵」の異名を持ち、今まで数々の犯人を捕らえてきた超凄腕の探偵である。

 

 唐突に訪れてしまった父親との別れ。悲しむ暇もなく、朔也は只一人残った探偵として、事件調査に励む事になる朔也。彼の目の前に立ち塞がるは、めくるめく起きていく数々の殺人事件。

 

クィーン・アイリィ号事件で知り合った新人女優、ゆりうに招かれた先で起きた「クリムゾン・シアターの殺人」。

 

事務所と自宅で起きた水道トラブルにより家を追い出され、転がり込んだ先のホテルで起きた「クーロンズ・ホテルの殺人鬼」事件。

 

 数々の事件の裏、揺らめくのは「最初の七人」の影。断也がかつて捕まえるも、計り知れない事情から生かされた厄災とまで呼ばれた国際指名手配犯。その内の五名が既に脱獄しており、更には何名かが日本に潜入していると言う事実。

 

けれど今は未だ追えぬ、追うよりも大切な事があるから。

 

「蘇りなさいませ、朔也様」

 

「また殺されてしまったのですね、朔也様」

 

 だからこそ、殺されながらも一歩ずつ。リリテアに見守られながら半人前なりに事件に挑む朔也。

 

彼はまだ知らぬ。「最初の七人」の内、既に三人と出会っている事を。彼を中心に、何者か達が動き出そうとしている事を。

 

 正しく解き明かすミステリーであり、時にバトルを繰り広げながら突き進む冒険活劇であり、そして時に朗らかながらも確かな絆の強さ光るのがこの作品である。

 

正にこの作品は重厚であり、一筋縄ではいかぬ。けれど、だからこそ。この作品は極上であると胸を張って言える次第である。

 

探偵もの、冒険ものの作品が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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