読書感想:双子探偵ムツキの先廻り

 

 さて、突然であるが名探偵の行くところ事件あり、という言葉を聞いたことの在られる読者様はおられるであろうか。例えば金田一少年の事件簿。まず彼の通う高校で殺人事件が発生し、ツアーに招かれればその場所がクローズドサークルに様変わりし、更には大人になって就職しても、仕事先が事件現場に早変わり。物語の都合上仕方のない事だとしても、行く先々で事件が起こりすぎ、死神と一部で言われるのも納得である。そう考えると、案外普通に生きられぬと言う時点で悲しいものであるのかもしれない。

 

 

では何故、探偵の行く先で事件は起きてしまうのだろうか? 先述した通り物語の都合上、言ってしまえばそれはそう。そして探偵は事件が起きてからしか動けない。それもそう。

 

「このとおり私たちは探偵です」

 

「探偵がいるところに事件は起きる。だから前もって警戒するのは当然だろう?」

 

 が、しかし。この作品における双子の兄妹、赤音(表紙中央)と青士(表紙右上)の「双子探偵」は違う。彼等は受け継いでいる、かつて探偵ある所に事件あり、最後には「死神」と呼ばれ表舞台から消えた名探偵、睦月の血を。彼等がいる所、「動機」と「状況」が揃った時に事件が起きる。彼等が「禁忌誘発体質」と呼ぶその体質。それに立ち向かう為、彼等は推理する。意外な方法で。

 

それはまるで推理のRTAのように。青士が時に事前に現場にカメラを仕掛け、時には自分で外から現場を見張り。赤音が持ち味のコミュニケーション能力で、動機の情報を集め。証拠と動機、それが揃った時に推理は完成、後は解き明かすだけ。彼らと同じ場に居合わせたのなら、事件は一瞬で終わりを告げるのだ。

 

 

そんな推理をしながら日本中をあてもなく旅をする中、名家お抱えの探偵である迷子(表紙左上)と出会い。彼女の雇われる名家の遺産争いの場に飛び込む事となり。気が付けば多くの時間、留まる事で。そこで事件が起きていく。

 

「なに、身構えなくてもすぐ終わる。簡単な解答だ」

 

が、しかし。そこに在る事件、疑われる犯人。疑心暗鬼も、すぐに意味をなさなくなる。何故か? それは彼等が「先廻り」する探偵だから。 いわば事件は、彼等が張った網に自ら飛び込んでくる獲物のようなもの。 警戒し過ぎなほどに用意周到、その用意にかかってしまえば、何もかもはあっという間に白日の下、というわけである。

 

 

そんな、探偵ものの約束を利用した、逆に探偵アンチテーゼとも言えるこの作品。感覚の違うミステリを楽しんでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 双子探偵ムツキの先廻り (電撃文庫) : ひたき, 桑島 黎音: 本