読書感想:十五光年より遠くない

 

 さて、一光年と言うのはそもそも光が一年に進む距離であり、人類が実現している最高速度に換算してみても、何百年とかかる距離であると言うのは画面の前の読者の皆様はご存じであろうか。そんな距離、一光年の十五倍、十五光年。そんな距離と比べてしまえば、どんな距離も短いものと言えるかもしれない。

 

 

さて、そんな距離よりも短い地球上で繰り広げられる、二年後の未来を題材に描かれる近未来とも言えるこの作品。この作品で描かれるのは何か、それはヒューマンドラマ。大人達それぞれの思いが廻る、重厚でどこかしんみりするお話なのだ。

 

 

「いるから、こうして無茶してんだ」

 

自衛隊の戦闘機パイロットとして、命知らずな無謀な機動をやり通し、世界各国の航空隊に恐れられた青年、陸(表紙右)。しかし彼は、防空圏内に現れた謎の気球を撃墜しただけで、政治の思惑に巻き込まれ罷免されてしまい、結果的に無職となった。

 

再就職先を探すある日、東京の渋谷で。出会ったのは初恋の女性、水星の妹である金星(表紙左)。官僚である夫、孔明との間に設けた子供が臨月、仲睦まじい水星の今の様子を垣間見。もやもやとしつつも、邂逅は終わる。

 

「東京に星が落ちるって、一体どういうことだ?」

 

・・・・・・が、しかし。その瞬間に巻き起こったのは東京全域の停電、更には本来現れる筈のないオーロラという異常事態。一先ず水星たちと合流し、即席の担架を作って水星を病院に運び込み。その先に金星から伝えられたのは衝撃の事態。

 

それは今、東京自体が停止し全てが遮断されている状態は、過去最大の太陽フレアのせいであり、その影響でアメリカの人工衛星が東京へ向かって落下しようとしている、という事。官僚である孔明がそちらへの対処に回る事となり、陸と金星は水星の為に血液製剤を手に入れる為に、神奈川の横須賀基地を目指す事となる。

 

「でも、それだけじゃだめなんだ。だめなんだって、俺はいまさら気づいた」

 

喧々諤々、ぶつかり合ったりしながら道中で出会った人たちの手を借り、時に海保の船と追いかけっこを繰り広げたりしつつ。少しずつ進んでいく中で。不器用にしかいきれない自分の生き方を変えれなかったが故に、色んなものを取りこぼしてきた陸は今更ながらの自覚をし、金星に自分を頼れと手を伸ばす。

 

「俺は、自分や家族に胸を張れる人間になりたい。それだけなんだって、ようやく気が付いた」

 

それは変わっていく印、大切なものに気付こうとする変化の証。それは、大気圏外より落ちてくる人工衛星を撃墜する時に発露する。自分が目指した宇宙への夢、その根底にあったもの。最初から持っていた本当の夢。それを叶える為に、陸は飛び立っていく。亡霊の名を冠する機体と共に。そしてその先に、金星の夢が本当の意味で始まっていくのである。

 

それぞれの思いと夢が巡る、重厚なヒューマンドラマが楽しめる今作品。ほろりと来る作品を読んでみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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