読書感想:冴えない社会人、家出ギャルにモテる。 ちょっと距離近すぎませんか?

 

 さて、世の中を生き抜いていくには癒しが必要である。特に社会の歯車として生き抜く社会人にとっては。画面の前の読者の皆様にとって、「癒し」は何であろうか? 私の癒しは、ラノベを読む事と、実家の飼い猫をもふもふして猫吸いする事である。その癒し、という内容は各人それぞれ答えは違うのが当然であろう。

 

 

そんな命題は、自分の中にではなく他人に求めるという方向性を出される読者様もおられるかもしれない。この作品もまたそんな方向の作品である。主人公とヒロインがお互いの癒しに、救いになっていく作品なのである。

 

とあるファミレスのホールスタッフとして働く社会人の青年、陸。お人好しで優しく、頼みを断り切れない故に抱え込むことが多し。いつも通りのこの日も、繫忙期的な時間に忙殺され、やる気のないバイトである藍良に困らされ。何とか仕事を終え、お酒で自分を酔わせてから帰宅の徒についていた。

 

「今から、あたしと遊ばない? その代わり、お金欲しいなーって」

 

時刻は真夜中、最寄り駅近くの繁華街。そこで彼に声を掛けてきたのは、モデル級の美少女であるギャル、星蘭(表紙)。親と喧嘩し家出してきた、と宣い初めてのパパ活に挑む彼女のお願いに屈し、彼女を家に泊めて。翌日、彼女を置いて仕事に向かい、帰宅すれば彼女がまだいて。やっぱり行く当てがない、という彼女を家に置くことになりこの作品は本格的に始まるのだ。

 

家出娘であるからこそ、外に出すわけにはいかず。結果的に物語は基本的に、彼の家の中という小規模なスペースで展開されていく。泊めてもらうお礼として、星蘭が家事を引き受ける事となり。彼女と過ごす時間が長くなるにつれて、気が付けばスマホや服を買いに行ったり、と彼女と行動する事も増えて来て。彼女の居場所が自分の家の中に増えていく。

 

彼女の中でどんどんと大きくなる、彼の存在。勉強を押し付けてくる両親、学力の高い兄と妹、結果を出せず諦められ、だけど兄と妹の成功で勝手にまた期待されて。そんな家族とは違い、陸はどこか温かくて。いつの間にか「家族」のような感情が湧いていく。

 

だけど、忘れてはいけない。それは彼にとってリスクを抱え込むと言う事。両親より出された捜索願、そして今の状況がバレてしまえば一番迷惑がかかるのは陸。だからこそこの心を抱え込んで封じて、それで離れていこうとする。

 

「だから、星蘭がいないと寂しいんだよ。俺のためにも、出て行くな」

 

けれど陸は、それを望んだ。最早彼にとっても彼女は生活の一部、癒しであり。だからこそ手放したくないと望み、また二人の秘密の生活は幕を開ける。

 

いつかは向き合わねばならぬかもしれない、だけど、今だけは。 密やかな交流と何気ない甘さが光る今作品。ほんのり甘いラブコメを読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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