読書感想:やる気なし天才王子と氷の魔女の花嫁授業(マリー・ベル)

 

 さて、花嫁授業、から連想して花嫁修業と聞くと何というか時代劇、朝の連続テレビ小説辺りで見たような気がするのは私だけであろうか。花嫁修業と言うのは文字通り花嫁になる修行であるが、普通の家では中々起こりにくいもの、と言えるかもしれない。そもそも、日本においては法律的に言ってしまえば二十歳になれば別に親の同意がなくとも結婚は可能である。そう考えるならば、かつての時代では当たり前だったかもしれぬ花嫁修業と言う単語も、いつの日か忘却の中に埋もれていくものなのかもしれない。

 

 

さてこの作品はどんな作品なのか、というと。花嫁授業と言うからには結婚から始まるラブコメなのかというと。正にその通り。結婚と言っても政略結婚、という道具である結婚から始まるのである。

 

「プライドなんて邪魔なものはとうの昔に捨て去ったからな」

 

様々なものに加工可能な魔術資源を巡って二つの国が争ったとある世界。その片方であるクリステラ王国の第七王子、ウィル(表紙右)。何においてもやる気なし、将来の夢は一生働かず三食昼寝付きで過ごす事。自堕落の極みである彼はある日、父親である国王から廃嫡か、継承か、それとも政略結婚かという三択を突き付けられ。消去法的に政略結婚を選ぶ事となる。

 

「なんであなたなんかと一緒に暮らさなきゃいけないのよ」

 

「それはこっちのセリフだ」

 

その相手であった魔女の国の姫君、リリーシュカ(表紙左)。同じ魔術学園の生徒であった彼女との初の出会いは、最悪な第一印象で。政略結婚、という事で一先ず体裁だけは整えようとするけれど、中々お互いの意見が噛み合わなくて。そんな中、彼女が無くした髪留めをウィルが見つけてあげた事で、少しだけ二人の距離が近づいて。本格的に息を合わせようとする中、一つの厄介な問題が持ち上がる。

 

それは彼女がマナーもダメ、ダンスもダメという王族の花嫁としての社交性が壊滅的であるという事。婚約発表を記念したダンスパーティが近づく中、一先ず付け焼刃でもいいから練習する事とし、ちぐはぐながらも練習に励み。その最中、パーティの場で、リリーシュカを狙った魔術が放たれ。そこから、彼女を狙う刺客の暗躍が始まる。

 

その中で判明していくのは、彼女の「氷の魔女」という異名の正体。その正体を知ってそれでも傍に居ようとするけれど。事態の裏で糸を引いていた黒幕、第五王子のフェルズの魔の手によりリリーシュカが浚われ。ウィルは助け出す為に、怠惰の裏に隠されていた牙、真の実力を解き放つ。

 

「愛のない花嫁じゃあ、胸を張って最高だって言えないだろう?」

 

それは神様から押し付けられた力。その行使には面倒な代償が伴う。それでも、その力を。約束を超えた約束を果たす為に。

 

真っ直ぐ王道なファンタジーでラブコメだからこそ心を打つこの作品。王道な作品が見てみたい方は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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