読書感想:迷探偵の条件1

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 さて、探偵の条件とは、いったいどんなものであろうか。創作における探偵の条件とは、一体どんなものであるのか? 頭の良さだろうか、頭の回転の速さだろうか、それとも犯人と戦う事になっても問題のない戦闘力の高さであろうか。

 

 

探偵と言うものには多種あれど、その条件の一つとして「事件に関係する事となる運の良さ」というものがあるかもしれない。当然かもしれない。例えばコナン君、金田一少年の周りを見てみてほしい。彼等のいくところ、まるで彼等が死神であるかと言わんばかりに凄惨な事件は巻き起こる。

 

 ならば、「迷」探偵の条件とは一体何であろうか? それは関わる者全てが癖のある者達である事なのかもしれない。

 

一学年千人を超えるマンモス校、私立葉桜高校。その普通科に通う高校二年生、陸。彼は十七歳を迎え、今日も学校へと登校していた。

 

 しかし、彼にとっては十七歳の誕生日とは憂鬱に過ぎるものであった。それは何故か。何故ならば陸の家系の男子は、十八歳までに運命の相手に出会わなければ必ず死ぬ、という運命的な因果を抱えているからである。

 

そして、もう二つ、彼には厄介な体質があった。一つは、何故かフェロモンが如くヤンデレな女子ばかりを引き寄せてしまうというもの。もう一つは、犬も歩けば事件に当たると言わんばかりに、事件が目の前で起きると言う「探偵体質」。

 

 半ば押し付けられたイベント補助委員という雑用係。そんな難儀な彼へと、事件は容赦なく彼の目の前へとやってくる。創作のマイルドさが薄められた、現実的寄りの事件の数々が。

 

新入生歓迎会、そこで起きた学年主任の首つり事件。

 

友達と共に道を歩いていれば、よからぬ事件の起きた企業からの飛び降り自殺事件。

 

化学薬品を使った、副担任の自殺未遂。

 

そして、学園祭の場で待ち受ける、ミスコンを狙った事件。

 

 関わりたくないのに、関わってしまう。解きたくないのに解けてしまう、分かってしまう。事件の目撃者となった探偵の彼は、推理してしまう。そんな彼へと、牙を剥く者達がいれば観察する者達もいて。

 

特進クラスの優等生、まりあ(表紙)に何故か毛嫌いされ。文芸部の部長、美海には観察され。

 

更には、文化祭を狙った犯人に害されそうになって。それでも、彼は死ぬわけにはいかない。ただ死にたくないから、だけではない。

 

「私が苦しませずに殺してあげるね」

 

何故ならば、自身の命を予約した可愛い、歪な愛に狂った死神がいつも隣にいるから。彼女の手にかかって死ぬのなら良い、だが彼女の手を汚させないためにも、死ぬわけにはいかない。

 

 何処かヤバい要素に満ちた、本格的ミステリをヤンデレで料理したこの作品。どこか歪で、重い。しかし、そんな作品であるからこそ今の世の中には唯一の、独特の面白さを持っていると言ってもいいはずである。

 

軽いミステリを読みたい読者様、日向夏先生のファンの皆様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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