読書感想:彼女でもない女の子が深夜二時に炒飯作りにくる話

 

 

 さて、炒飯という料理を食べたことのないという画面の前の読者の皆様は多分存在しないであろう。炒飯、それは美味しいものであり、簡単にできる料理である。しかし油をかなり使う、という料理なので意外とカロリーは高いと言えよう。そしてこれもまた忘れてはいけぬのであるが。深夜に高カロリーなものを摂取したら、デブ一直線であると言う事を。

 

 

しかしこの作品、タイトル通り、彼女でもない女の子、銭子(表紙)が深夜二時に炒飯を作りに来るのである。 普通に考えてみてほしい、彼女でもないのだ。と言ってもストーカー、という訳でもない。では何故そんな事になっているのか。その答えをここから書いていきたい。

 

「なんで君は深夜二時に炒飯作りに来ているのか?」

 

「藤堂君は炒飯作るならいまのうち、という言葉を知らないのですか?」

 

投資家の父親を持ち、兵庫駅付近のタワーマンションの最上階に実家を持ち。神戸市にある国内有数の進学校で次席の成績を誇る少年、破蜂。彼の家に深夜二時、というどう考えても常識はずれな時間に訪ねて来た銭子。母子家庭の貧乏家庭ながら首席の学力を持つ、秀才タイプな彼女。さて、無論物語が始まる前に彼女からの告白は断っている。あとついでに言うなら、破蜂は家族と共に暮らしており、当然起きてきた父母に見られて誤解されそうになるも、銭子の逆に誤解を招く発言で両親が納得してしまい。結局彼女の存在は受け入れられ。時々彼女は破蜂の家にやってくる事となる。

 

時に野良猫に決闘を挑む銭子を見守る事となったり、何故か自主製作映画を彼女と一緒に見る事となったり。何が何だか、とりあえず二人の時間は何故か一緒に続いていく。時に銭子が破蜂を蹴ったりしつつ。二人で焼き肉に行ったり、七輪で肉を焼いたりしながら。そんな日々が生温く続いていく。

 

「私はあの男に惚れたのだ」

 

その日々の中にあるのは何か。 そこにあるのは、破蜂の思い。 父親に愛されぬと認識し、銭子の事ばかり注目している父親が、銭子に家庭への援助と引き換えにとあることをお願いしていると知っているからこそ、それを憎みながらも彼女の事を好いているという思い。

 

同時にあるのは銭子の思い。クズなエリートだった彼の、まるで見捨てられそうな子供のような縋る本心に触れ、彼の事を独占したいと思った、捕えて囲むような重き愛。

 

 

「まともな奴はいないのかな、この学校」

 

よく考えてみると、二人とも何処かまともではない、といえるかもしれぬ。しかしこの作品は、誰しもが何処かおかしい。 共に同じ人を好きになり、横取りする形で仲たがいした銭子の幼馴染、雲丹亀と銭子がキャットファイトと言う言葉が生温いガチの喧嘩を繰り広げたり。 暴力大好きドS風紀委員な銭子の友だち、べーちゃんが目を輝かせながら二人纏めてぼこぼこにしたり。突然の暴力描写もあったり、中々曲者な日常生活となるのだ。

 

その芯の中にあるのはモラトリアム、猶予時間。思いをきちんと持ちながらも、色々考えてしまって動けない。そんなもやもやとした思いなのである。

 

一癖二癖、どころか癖のあり過ぎる胸焼けしそうな青春が送られるこの作品。正しくここにしかない、という作品を読んでみたい方は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。