さて、別に私はオタクとして老害と呼ばれる部類の人間ではないが、画面の前の読者の皆様に少しだけ、昔を振り返る事をお許しいただきたい。今、ラブコメやなろう系作品が主流となっているラノベ界。だが今から二十年くらい前、ゼロ年代。少しずつ円熟を迎え、様々なレーベルが隆盛を始めた頃。その時に主流だった作品とはどんな作品なのであろうか。
その答えの一つが「異能バトル」。現代世界で、特別な力を持つ子供達が日夜バトルを繰り広げる世界が確かにあったのがあの時代であり。この作品もそんな作品の一つなのである。
どこかぶっきらぼう、読書好きでちょっとだけ排他的。叔父と暮らしながら実質はほぼ一人暮らし。そんな少年、伊織(表紙中央上)。級友であり同じく読書好きの少女、さつきと特に色恋沙汰もない関わり合いをする毎日にある日、突然謎の存在が乱入してくる。
「ウォーライク。クリスはウォーライクなの」
その名はクリスタベル、通称クリス(表紙中央)。行方不明の父親から七年越しに届いた荷物の中に入っていた外見十歳くらいの謎の少女。まるで何も知らぬ幼女のように傍若無人に振る舞う彼女は、自分は「妖精」であると告げる。
無論それを信じられる伊織ではなく、溜息をつき面倒事はごめんだと彼女を警察に届けようとする。その途中、突如として二人以外の世界は静止し、世界はセピア色に染まり。武器を構えた謎の男が突如二人を襲撃してくる。
「ぶっきらぼうだけど、イオリはやさしいね」
訳も分からぬまま、クリスに血の味のするキスをされ。その途端、影の中に沈んだクリスは剣へとその姿を変え。謎の男を謎に昂る感情のままに退けた伊織の元、彼の通う高校の美術教師である薬子と相棒のウォーライク、エルクが姿を現す。
翌日彼女から語られた基本的な事。クリスやエルクは「妖精」と名乗る存在であり、故郷である「楽園」にたどり着くために仲間同士、伊織や薬子のような「鞘の主」と共に戦っていると言う事。勝ち残る度に力を得て記憶を取り戻す彼女達、しかし負けてしまえば彼女達に関する記憶を失い、そもそもこの戦いは命がけという事実。
もはや戦う以外道はない中、薬子から基本的な技能を習ったり、クリスの世話をしたり。その中で伊織とクリスは謎の遠距離攻撃をしてくるウォーライクに狙われ、さつきに妖精と関わった証が付着している事を確認する。
「人間なんてのは、結局はひとりで生きてかなきゃならねえんだよ!」
さつきを囮に伊織達を呼び出してきたのは、さつきの縁者であった「鞘の主」とベルフィービと名乗るウォーライク。伊織に一方的な激情を抱く主を唆すベルフィービ、その在り方にイラつき吼える伊織。共依存のような歪な絆を受け入れている者達は許せなかった。今まで一人で生きてきたから。その在り方を否定し、容赦なく刃を突き立て勝利をもぎ取り。だが戦いが終わった場、天を衝く程の羽根を持つ謎の紳士が挨拶に訪れ、父親との知己を仄めかし消えていく。
「問題は・・・・・・それがいつまで続くかということだ」
いつか来る別れ、しかしそれはまだ。戦いは始まったばかりなのだから。
何処かしっとりとした懐かしい空気のある、異能バトルに触れてみたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。