読書感想:幼馴染に陰で都合の良い男呼ばわりされた俺は、好意をリセットして普通に青春を送りたい1

 

 さて、「リセット」という言葉を聞くのが多いのはゲームではないだろうか。リセット、それは基本的にゲームにおいてはボタン一つで出来る動作。しかし、例えば人間関係をリセット、という事になるとボタン一つではいかないのは皆様もご存じであろう。例えば社会人が親周りと縁を切る、とすれば戸籍閲覧制限、遠方への引っ越し、更には連作先の削除、といったように様々な手続きと手順が必要となる。 しかしそんな事を本当にやったとしても、実は出来にくい事もある、というのはお分かりであろうか。

 

 

それは自分の心、感情のリセット。人の心の感情、それは簡単にリセット出来る訳ではない。それこそ、感情は簡単に忘れられぬように。人によって差はあるだろうけれど、ある程度引きずるかもしれぬ、という事である。

 

しかし、この作品の主人公、剛に関して言えばその限りではない。特殊な生い立ちから人間の心が分からず、見ようによっては淡々と、時に鬼気すら纏っているように見える彼。そんな彼が密かに持っている力、「リセット」。文字通り、自分の感情を消して、思い出すらも消してしまう。自己忘却の究極形、と言えるかもしれぬ力。

 

「つ、都合の良い男みたいなもんよ!」

 

「あいつ騙されてやんの」

 

「―――もう二度と、美々には近づかないで欲しいっす!」

 

 

その力を知らず、彼に対し心無い言葉を投げかける三人の少女。ツンデレ気味な幼馴染、華(表紙)は照れ隠しを、彼に勉強を教わり「先生」と呼ぶ少女、六花は期せずしてイジメまがいの悪戯を。共にランニングする事を日課にする後輩、美々は剛を嫌う部活の先輩に媚びを売る為に。 ある意味最低な行動をそれぞれしてしまった事で、彼女達三人は知らぬ間に剛の中、感情を「リセット」されてしまう。

 

その行動は、剛にとっては周りを見る余裕を齎し。彼の周り、少しずつ関係性は広がりを見せていく。しかし、忘れてはいけぬ。覆水盆に返らず、タイムマシンなんてないからこそ、やり直しはもう効かぬという事を。

 

「本当に一から友達になってください」

 

大切なものは目に見えない、無くして気付いてももう遅い。 それでも、それでも、と。まず彼の事をよく見て来ていた華がリセットに気付き。自分の中で優越感に寄りかかっていたという事実を見直し反省し、彼とやり直したいと近づこうとする。

 

 

彼女はまだ、行動できた分マシ、なのかもしれない。六花も美々も。それぞれ無くしたもの、それでも向けてくれるものを知り。莫大な喪失感に打ちのめされ、けれど泣く事しかできぬ。

 

「リセットから始まる青春でもいいだろ?」

 

それでも、剛はリセットする。自分のせいで、自分の思いで苦しめていると背負い込んで。だとしても、又初めからと。前向きな思いで躊躇なく、だ。

 

 

正しく異質、唯一無二。 苦さと苦しさこれでもかと詰め込んで、その果てに痛みながらも何かを探すこの作品。苦い作品が好きな方は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

幼馴染に陰で都合の良い男呼ばわりされた俺は、好意をリセットして普通に青春を送りたい 1 (HJ文庫 の 05-01-01) | 野良うさぎ, Re岳 |本 | 通販 | Amazon