読書感想:大っっっっっっっっっっ嫌いなアイツとテレパシーでつながったら!?

 

 さて、最近のラブコメ、というのは色々考えてみると、どうも主人公とヒロインの間に元から何かしらの繋がりが有ったり、好感度なるものが割と高め、少なくともある程度ある状態から始まる事が多い、気がするのは私だけだろうか。その理由とはなぜなのだろうか。あまりまだるっこしい事をせず、さくさくと、という物語の高速化、というのがあるのだろうか。それは今の世の流れによる流行なのだろうか。

 

 

 

さて、ではこの作品ではどうなのか。経済特区、東京都白銅区。東京タワーを遥かに凌ぐ高さを持つ、赤坂タワーと呼ばれるオフィスビルが見下ろすこの区で。この特区にある上流階級の子女達が通う頌明学園。そこの特待生である少年、有栖川譲(表紙左)と赤坂家の御令嬢、赤坂彼方(表紙右)は日々、いがみ合い嫌い合っていた。それこそ恋愛の要素が一切絡むことのない、正に好感度ゼロ、という類で。

 

「いい? 私が嫌いなのは―――命令されること。それから、・・・・・・あなたよ」

 

「・・・・・・ははっ、そりゃこの上ない栄誉だ!」

 

 さて、何故2人がいがみ合っているのか? それは二人が物語開始前の六年前、「交信」という謎の現象で繋がってしまったから。心拍数の上昇をトリガーとし、三分のタイムラグを以てお互いの心の声が聞こえる、という謎の現象。これはこの国では「不正能力者社会病理仮説」という陰謀論の発端、「赤坂文書」の中で記された「不正能力者」の証。 陰謀論の中の存在、しかしその正体がバレるのは非常に不味い。故に二人はその事実を隠しながら。だが繋がりと言うのは、二人の仲を疑わせる材料となり。さらには譲を庇って彼方が事故に遭った、という結果を過去に心の声を送った事で、未来を変えてしまい。 ここから厄介事は巻き起こる。

 

途端に接触してくる、謎の刺客。その裏で糸を引くのは狂気的な科学者。更にやってきたのは、公安警察の存在しない課。その身を狙われ、あっという間に手配され。堪らず逃げ出すも、まるで誘導されているかのように、誘い込まれ。未熟ながら、考えも及ばぬながら必死に、逃げていく。

 

「あなたはいつも考えすぎなのよ」

 

「君が考えなさすぎなんだって」

 

 

その中、運命共同体となったからか。いがみ合うのが常、ぶつかり合うのも日常。その中で二人は、少しずつお互いに向かい合っていく。彼方は、赤坂の家が潰した家の一つの子供である譲が背負わされたものを垣間見。譲は、赤坂の家で生き方を強制される彼方の、本当の望みを目撃していく。

 

逃避、逃げる。それは奇しくも、お互いが望んだもの、心の中で願っているもの。だけどそれでも、逃げ続けるわけにはいかぬ。 時に人には戦わねばならぬ時が来る。味方である者も信じられぬ、唯一信じられるのは皮肉にもお互いだけ。 乗り越える為、戦いを挑んで。しかしその先、明らかになるのはどんでん返し。最悪に過ぎる事実。

 

「だから約束、きちんと守りなさいよ」

 

だからこそ、また逃避行を。今度は帰れぬかもしれぬ最悪の旅路を、目的を叶える為に。奇妙な絆で、テレパシーで繋がってしまった、この二人で。

 

ここにしかないSFちっくなラブコメが繰り広げられているこの作品。唯一無二の青春を読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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