読書感想:悪ノ黙示録 ―裏社会の帝王、死して異世界をも支配する―

 

 さて、古くはアル・カポネ等歴史の教科書に登場する事もあるギャングと呼ばれる存在。日本において言うなればヤクザ、であるのかと思うが違うかもしれない、というのはさておき。ギャング、もしくはマフィア。そのイメージとしてついて回るのは「裏社会」という言葉であろう。酒とクスリと、銃と暴力。 そういった言葉が付いて回るかはともかく、裏社会と言うのはバイオレンス、というイメージがある読者様も多いかもしれない。

 

 

しかし、そういった世界であるからこそ、重要なのは信義、そして信頼、忠誠。そういった仁義こそが重要なのかもしれぬ。この作品はそういった裏社会の魅力、をそのまま出している作品なのである。

 

「善人などどいう、退屈なものにだけはしてくれるなよ」

 

とある地球、ドルが通貨である国に生きた世界最大のマフィアの首領。彼は今、絞首台にて死刑を迎えようとする中、その人生に満足しきっていた。その死は予定調和、世代交代の為の儀式。故にやり切った、満足した。 好きに生きて好きに死ぬ、その生き方にこれ以上ない程に満足しているからこそ、願えるならば来世もまた、悪人として。 常人から見れば歪んでいる、とさえ思える願いを以て、男は死を迎える。

 

「なら、俺に雇われてみないか?」

 

 その次、男の意識が目覚めた時。その意識は中世に似、しかし魔術や魔力が存在する異世界のスラム街にあった。とりあえず目覚めて傍に居た、スラム街の子供達に話を聞き多少の常識を学び。彼はレオ(表紙左)として、この世界で歩き出す事を決める。

 

魔力や魔術、といったものが神から下賜されるこの世界で、スラム街に住まう者達は「剥奪者」と呼ばれる、魔力を持たぬ者達が大半。 だけどそれは、レオの願った通り。 表通りの者からスッた財布で子供達にご飯を奢り、酒場でこの世界のギャング達の裏取引の一部を聞き。レオはまず手始めとして、一つの計画を立案する。

 

その計画に、協力者として、同盟相手として、家族として。迎え入れられたのは、彼により名を得た少女、ユキ(表紙右)、イドラ、ヴァイスといったスラム街でも一目置かれる子供達。 仲間を得、彼は早速動き出していく。

 

狙いとなるのは、彼が転生した街の治安維持組織である騎士団、そしてギャングの裏取引。その思惑を知らぬ副団長であり高名な騎士、サフィアが裏切りと包囲により危機に陥る中そこへ介入し。あれよあれよと引っ掻き回し、彼女も仲間に引っ張り込み。正義側である彼女も味方に、騎士団とギャングを相手に大立ち回りを繰り広げる。

 

「最初からお前など、俺と同じ土俵にも立てていないんだよ」

 

小さな街の木っ端な悪党なぞ、立ち塞がるに値せず。暴力を制するのは、より大きな暴力。

 

「その偽善を貫き続けることこそが―――私の正義だ!」

 

 

そこに込められた、力への仁義。その仁義を垣間見、サフィアの正義は確実な芯を得る。

 

 

だがしかし、忘れてはいけない。 この作品はダークヒーロー英雄伝、などではない。「悪ノ黙示録」なのだ。 大切なものの為ならそれ以外を容赦なく切り捨て、例えいつか非業の死を遂げるとしてもその道を行く。その裏で新たな悪をどれだけ産むことになるとしても。 そんな血塗れのお話なのである。

 

正に悪。唾棄したくなるかもしれぬ程に、唖然としてしまうかもしれぬ程に、まごう事なき悪。 そんな悪、という概念の面白さが込められたこの作品。 悪に酔いたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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