読書感想:メンヘラが愛妻エプロンに着替えたら

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「メンヘラ」と聞いて、どんなイメージを連想されるであろうか。個人的にはストゼロ(お酒)をストローで飲んでいるイメージがあるのだが、何故だろうか? と、いう小話はさておき、メンヘラと聞いて画面の前の読者の皆様は面倒くさい、関わりたくないという印象を抱かれるかもしれない。しかし地雷系ファッションと呼ばれる衣装に身を包み、リストカットと呼ばれる行為に時に身を染めているそういった人達も、実は何か抱えているものがあるかもしれない。

 

 

過去三回女性と付き合い、その三人全てがメンヘラだったという、中々に低い可能性を引き当ててしまい。トラウマは何とか癒えるも、恋愛に臆病になってしまった青年、晋助。東京の大学に通い一人暮らしをしながらも、女に飢えた友人、浩文と駄弁ったり、姉のような幼馴染、千登世と姉弟みたいなやり取りをみせたり。

 

「最高ではあるけど、それは受け入れられない」

 

 その日々に突然入り込む影が一つ。それは、同じ大学に通うメンヘラ女子な静音(表紙)である。パパ活をしている事を知っているという事実を彼女の前でぽろりと漏らしてしまい、目を付けられるも晋助の良心に拍子抜けされ。彼女から秘密を守る代わりに生活をサポートする「通い妻契約」を持ち掛けられるも心の痛みからそれを断り。代わりに友人としての契約が始まる。

 

だがしかし、どうしても居場所がない時と言ったにも変わらず、静音はほぼ毎日家に押しかけてくる。せっせとご飯を作ったり、晋助の夢であるイラストレーターへの道を、アドバイスという形で応援したり。今までのメンヘラ女子とは違う、どこか影を抱えたような彼女の事から晋助は目を離せなくなっていき、同時に今までの男子とは違う、ちゃんとした愛を与えてくれる彼に、静音はどんどんと縋りついていく。

 

それを善しとしない者が一人。何を隠そう、千登世である。晋助が傷つき悩んできた歴史を知るからこそ、静音に対しては警戒心を抱き。彼女にこれ以上の依存心を抱かせぬべく、彼の過去の一端を明かし引き離そうとする。

 

それは善意から出たもの。けれど諸刃の剣。初めて見つけた、本当の愛の断片を放したくないと静音は無理に自分を変えようとして、まともな精神状態ではない彼女に戸惑った晋助との間に溝が出来てしまう。

 

そこにあった時間は終わり、自暴自棄の檻に堕ちようとする静音。千登世にどうしたいかと聞かれ、浩文に何故そこまで関わるのかと問われ。余計なものを取っ払って、考えた己の本心。

 

「静音が、僕を必要としてくれたから」

 

 前提から間違えていた、根っこは単純だった己の思い。必要としてくれたから、ただそれだけ。でもそれは、彼も静音に縋っていたという事の表れ。

 

ではどうすればいいのか。ヤリサーに捕まりかけていた静音を助け、改めて二人で向き合って。

 

「僕が静音を必要とするように、静音も僕を必要としてくれ」

 

 今度は自分から持ち掛ける「通い妻契約」、だがそれは一方的なものではなく。僕を頼れという条件は、未来へ進む為の一歩。共依存をいぬいて共存へ変えていくための、新しい約束を交わす。

 

この作品は確かにハートフルである。だがそれだけではない。傷ついた二人が出会い、お互いを拠り所として再生へ向かっていくラブコメであり。何処か切なくて苦い、まるで深煎りされたカフェオレのような作品なのである。

 

ちょっと切ないハートフルなラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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