読書感想:生徒会長との待ち合わせは、いつもホテル。

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様はとある漫画に登場するスキル、「愚行権」なるものをご存じであろうか。簡単に言ってしまえばご都合主義、主人公補正への拒否権という一見してしまえば訳が分からんスキルである。と、いうのはともかく。 ラノベのような青春、というのは基本的にはない、のは画面の前の読者の皆様もご存じであろう。桜と共に転校生が現れたりなんて、雪とネオンに彩られた街中で恋人と寄り添う、なんて基本的にはない。 起きないのである。

 

 

といった前置きから分かっていただけたかと思うが、この作品はそんな作品である。 リアルな、時々焦げ付くくらいに痛ましくて、面倒な思いが交錯して。ままならぬ等身大の青春が描かれるのがこの作品なのである。

 

想い人である少女に告白する前からフラれ、幼馴染である年上の保険医、透に慰めを求めようとした少年、フータ。彼は透が見慣れぬ制服を着てホテル街へ消えていったのを偶々目撃し。その先で、路地裏で絡まれていた同じ学校の少女を助ける事となる。

 

「おれは、清瀬さんともっと一緒にいたい。清瀬さんのこと、知りたい」

 

 

 その相手とは、真面目で誰からの信頼も篤い生徒会長、まつり(表紙)。無我夢中で逃げた先、彼女に何故かホテルに連れ込まれ、明かされたのは衝撃的な事実。それは彼女がパパ活をしている、という事。その事実の口止めをされ、もう関わらぬ、それで済むはずだったのに彼は、自分でもよく分からぬ思いから彼女ともっと関わる事を選び。 まつりから、自身の友人でもありフータの想い人でもあるゆきと付き合って欲しい、という契約を持ち掛けられ。ここに二人の共犯者、とでも言うべき関係が始まる。

 

彼女の助言を元に、告白したけど玉砕し。だけど友人としてその関係が始まる事になって。 様々な場所で、不思議な三角関係が始まっていく中で。まつりの中、フータへの思いが高まり始めていく。

 

 

「・・・・・・もっと、フータと遊びたい」

 

 

自分には何もない。ただ望まれたから、ただ愛されたいから。夢もない自分に寄り添って、手を伸ばしてくれた彼。彼の事が大切で、もっと一緒にいたい、と思いが大きくなっていく。

 

だけどその先にちょっとした諍いで二人の関係は途切れてしまう事になって。 寄りかかろうとした「パパ」の本性にまつりが危機に晒される中。 ゆきの思いも知って、それでもまつりを選んだフータが、自分の危機も顧みず駆けつける。

 

「だけど・・・・・・これからも一緒にいて」

 

やっと見つけた、本当に大切にしたいもの。 やっと気付いた、自分に足りなかったもの。それを自覚し、また関係が繋がって。 好きじゃない三人の、不思議な関係が続いていくのである。

 

痛ましく苦い中に、仄かな甘さがある今作品。 傷つけられるような青春が好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 生徒会長との待ち合わせは、いつもホテル。 (ファンタジア文庫) : 長友 一馬, 葛坊 煽: 本