読書感想:宅録ぼっちのおれが、あの天才美少女のゴーストライターになるなんて。

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 さて、画面の前の読者の皆様は何かに憧れられて何かを始められたことはあるであろうか。何かのようになってみたい、何かのように輝きたい。そんな思いを抱かれて、何かの世界に踏み込んでみたことはあられるであろうか。

 

 

クラスではぼっちな、何処か捻くれた自意識過剰な少年、拓人。彼の趣味は宅録である。趣味が高じてバンドに必要な楽器は一通りできて。けれど特に仲間は作らず、一人で活動する。

 

 そんな彼の憧れの存在、その名は「amane」。天才的なシンガーソングライターでありながら、たった二曲のみを残し消えてしまった非業の音楽家。そんなある日、彼はクラスメイトの天音(表紙)が教室で練習しているのを目撃し。意を決し、彼女の正体が「amane」であるとの確信を告げ、この作品は幕を開ける。

 

事実を認めた彼女は言う。周りの反応が怖くなって、自分の歌では歌えなくなってしまったと。

 

「小沼くんの曲、私に一つだけくれないかな?」

 

そして彼女は願う。彼の歌ならきっと歌える、だから欲しいと。拓人は自身がゴーストライターとなる事、そしていつか自分自身の歌声を聞きたいと言う条件の元、約束を結ぶ。

 

再び歌う為に、行動を始める二人。だが、二人だけでは歌えない。もっと曲を、もっと仲間を。そんな二人は新たな仲間と出会い、交わっていく。

 

器楽部部長で作詞が趣味なamaneの信者の由莉。拓人の幼馴染であるも疎遠となってしまった不器用だけれど優しいベーシストの沙子。

 

新たな仲間を加え、時にインスタグラマーな級友に絡まれたり、天音の体調不良で看病したり、彼女の家庭環境に触れたり。

 

目標とする舞台へと皆で向かい、時に意見をぶつけ合ったり、時に青春な日々を過ごす中。拓人は仲間がいると言う事の楽しさを知り、その心が変わり出す。今までの一人きりだったからな独りよがりな音が、皆の音と絡まり合い、全ての土台となり引き立たせ舞わせる音へと昇華されていく。

 

その音に、由莉も沙子も背を押され。過去の最低な真実も乗り越え、再び一丸となり本番の舞台に立つ。

 

 その舞台で待っていた初めての景色と懐かしき景色。そして、自分の歌を求めてくれると言う人がいると言う真実。だからこそ、もう立ち止まらない。その時、天音の口から再びの歌が紡がれる。新しい「amane」ではなく、あの日の「amane」としての歌が。

 

「小沼くんは、私の憧れなんだ」

 

約束は果たされた、だから終わる筈だった二人の関係。だが、終わらせたくないと天音は拓人を追い。かつて自分が彼を変えたように、彼の音楽が自分を変えてくれたから、もっと二人で歌いたいと願う。

 

だからこそ始まるのだ。ここから新しい歌が。第一楽章を終えても終わらぬ、第二楽章を越えてその先まで続く事を願う歌が。

 

嗚呼、正にこの作品は青春である。そして王道のバンドものである。そして今まで知らなかった非日常が如き日常を経験して拓人が成長していく、真っ直ぐな成長譚である。

 

そしてこの作品の作中歌はyoutubeでMVが公開されている。そのMVも含めて、この作品は一つの作品なのだ。魂に直接訴えかけ突き刺してくる、心震えるほどの青春と音楽が溢れている。

 

故に胸を張って言いたい、この作品は紛れもなく最高であると。

 

バンドものが好きな読者様、王道の青春譚が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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