読書感想:クールな月城さんは俺にだけデレ可愛い

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 さて、昨今のラブコメ界においては幼馴染ものが一つの主流であるが、幼馴染とのラブコメの始まり、というものにおいて画面の前の読者の皆様はどんなシチュエーションを連想されるであろうか。幼馴染だからこそ、仮定を飛ばした結婚から始まったりするだろうか。それとも、疎遠だった幼馴染と再会した事から始まったりするであろうか。

 

 

この作品においては後者である。しかしこの作品は、厳密に言えば「ラブコメ」という括りに非ず。「同居青春小説」と言うらしい。つまりはどういう事なのか。同居青春小説とは一体、何なのか?

 

 その答えを今から書いていこうと思うが、もしかすると私の語彙力が足りなくて伝えきれぬかもしれない。もし伝わりきらなかったという読者様は、是非自身の目で確かめてみてほしい次第である。

 

「あたしと、付き合ってもらえない?」

 

「・・・・・・と、友達からなら」

 

かつて小学六年生の頃、自身の不用意な一言と無知な心のせいで女子を傷つけてしまいそのせいで己の心も傷つき。女性不信となった主人公、悠。彼の中、欠片ほどに残っていた「女性を信じる心」を打ち砕いた、モデルをやっていて全校生徒の注目の的、碧(表紙)。小学四年までは幼馴染、だが再会した彼女の振る舞いに心打ち砕かれ苦手意識を抱き。そんな彼女に何故か告白され、友達からならと承諾した事からこの作品は幕を開ける。

 

 もう一度、友達から始まった関係。そこに何故か付け足された「同居人」という関係。碧の親の仕事の都合で唐突に始まった同居生活。唐突に始まった日々の中、友達として。彼女の知らぬ顔、自分だけが知る顔は少しずつ増えていく。

 

春、始まった同居生活。ホラー映画に本気でビビる彼女を見て、昔もビビりだったことを思い出した。

 

夏、級友達も交えイベントの続く日々を駆け抜ける中。彼女がカナヅチである事を知った。

 

秋、文化祭で二人きり。幼い時もこんな時があったねと笑いあった。

 

そして冬。クリスマス、盛り上がる街並みの中を「友達」として歩いた。

 

 春夏秋冬一巡り、何処か懐かしさも感じる日々の中。少しずつ、彼女が隣にいる事が当たり前になっていく。二人の間の距離感が変わっていく。他人に見られ、定義される関係性が変わっていく。

 

それはまるで、するりと入り込む風のように。気が付けば隣にある陽だまりのように。

 

閉じていた扉が、少し開いた。

 

閉じていた扉を、君が開いた。

 

「悠の・・・・・・親友になりたい・・・・・・」

 

そして、少しだけ関係の変わる音がする。前を向いて歩き出す、その背を押す風が吹く。

 

何処か雑多な、だけど現実的な生活感の中。ノスタルジーを感じながらももう一度友達からやり直す。春夏秋冬の中、悠の心を碧が少しだけ開いて入り込んでいく。

 

なるほど、これは正に「同居青春小説」であると言う他ないだろう。何処か地に足の着いた、何処にでもあり得る青春であり、ラブコメ未満の恋愛。それを丁寧に、一年かけて描いているからこそ。どこか胸の中に入り込んでくる面白さがあると言わざるを得ない。

 

だからこそ、声を大にして言いたい。この作品、最高である。

 

どうか是非に、もう少しだけ。二人の関係が更に変わる新たな一年を拝みたい。

 

地に足の着いたラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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