読書感想:君と一緒にごはんが食べたい

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様はラグビーと言う競技の名前を聞いて何を連想されるであろうか。プロラグビー選手を名乗るyoutuberを思い浮かべる方もおられるかもしれないし、ツッパリ生徒と泣き虫先生、という言葉を思い浮かべられる読者様もおられるかもしれない。しかし、縁のない読者様もおられるかもしれない。だが知らぬとしてもそこに青春を賭けている者達がいるのも確かであり。そこに青春があるのも確かなのである。

 

 

藤森高校ラグビー部主将、伊織(表紙左)。全国のラグビー部にとっては憧れの舞台である花園を目指し、高校生活三年間の集大成として。生意気なエースである倫太郎に振り回されたり、親友である仁志やマネージャーである美優に支えながらも練習に励む彼は、ラグビー部によくあるゴリマッチョな体形をしていた。それこそ実の親からゴリラと弄られるほどに。

 

「わたしと一緒にお弁当・・・・・・食べない?」

 

 そんな彼には、最近ふと気にかかる事があった。それはクラスの美少女である小春(表紙右)とふとした瞬間に何故か目が合うという事。更には彼女に急に昼食に誘われ、急に来た春に浮かれる彼。だが彼女が作る弁当は、何を間違えたと言わんばかりにメシマズだったのである。

 

「美味い」

 

だがそんな事実を、生来の優しさは口にする事を許さず。何とか飲み込み、美味いと言って見せて。それが縁を繋いで、マズいお弁当を繋がりにした不器用な交流が幕を開ける。

 

お弁当を通じ目撃していくのは、高嶺の花であった小春の年相応の素顔。誰も知らぬ顔を守りたいから、とミスコンの料理審査で窮地に立たされた小春を柄にもなく舞台に上がって助けたり。ひょんな事から小春の親に面通しをしたりと、どんどん小春周りの世界は広がっていく。

 

だが、彼の手は何もかも抱え込めるほど大きくはなかった。小春の作ったご飯が食あたりを起こしてしまい、大切な試合を流してしまい。それを切っ掛けとして、チーム内に不和が訪れる。彼女の事を思うあまり、今まで夢中になっていたものから目を離してしまう。

 

「俺はあの舞台から見えない景色が、どうしても見たいんだ」

 

そんな彼へと、倫太郎は見損なった、憧れていたのに、という内心を吐露し。その本心が今まで見えていなかったものと、変化を求める新たな姿勢へと繋がり。まるで憑き物が落ちたように、伊織はもう一度前を向く。

 

「俺の胸板ならたぶん、瀬尾の涙くらい受け止められるから」

 

もう一度絆を結び直し、自分の本当の気持ちと向き合い、旅立つ小春。笑顔で別れる筈だった、けれど涙は止められぬ。その涙を受け止め、伊織は花園への切符を賭けた舞台へと挑む。頼れる仲間達と共に、皆の想いを背負って。

 

その果てに待っている景色は、未来は。もはや言うまでもないだろう。ヒロインの想いを背負ったヒーローに負ける道理は何処にもないのだから。

 

スポ根、音楽、三角関係、メシマズ。あらゆるものがまるで宝石のように輝き、それ達がこれでもかと詰め込まれているこの作品。正に王道の青春である、一瞬しかない輝きなのである。だからこそ、私はこの作品にあらゆる感情をこめて「御馳走様」と言いたい。そんな万感の思いが溢れるのがこの作品なのである。

 

王道ど真ん中の青春が見てみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

君と一緒にごはんが食べたい (講談社ラノベ文庫) | 日日 綴郎, 椎名 くろ |本 | 通販 | Amazon