読書感想:異端審問官シャーロット・ホームズは推理しない ~人狼って推理するより、全員吊るした方が早くない?~

 

 さて、人狼、及びそれに類するゲームは大人数で行うものであり、ぼっちである読者様がおられれば敷居が高いものかもしれない。ではそういったゲームは何が面白いのであろうか、と聞かれればやはり、人狼と言う名の犯人を推理するのが醍醐味なのであろう。ではそんな遊戯で、人狼、もとい黒幕を探さず怪しい者を片っ端から吊っていけば何が起きるのであるか。初期の方で犯人を吊れれば、まぁマシかもしれない。しかしそれは、どう考えてもギャンブルである。一か八かで賭けるにはいささか分が悪いかもしれぬギャンブルである。

 

 

しかし、そんなギャンブルを平気で行おうとするのがこの作品のヒロイン、異端審問官であるシャーロット(表紙左)であり。殺戮一直線な彼女の頭脳となるのが、主人公であるジョン(表紙右)である。

 

十八世紀に始まったヴィクトリア朝が終わらず近未来を迎えた、とある世界のイギリス。ベイカー街の探偵がいないこの街の夜に暗躍するのは、人を食らいその人の姿を真似る「人狼」、その脅威に対抗するのは己の身体を機械化した、政府公認の暗殺者、「異端審問官」。

 

「決めた。次はあなたにするわ」

 

「だって人狼って推理するより、全員吊るした方が早くない?」

 

その異端審問官としては新人、幼くして両手足を機械化したシャーロットは、しかし精神面ではまだ未熟。周囲の被害を顧みず、人狼を殺戮しようとする。その異端審問の場に居合わせ、たまたま近くにいたからという理由で殺されかかったジョンは、しかし未熟ながらも推理し、見事に人狼を言い当て。その場に送れて駆け付けた、シャーロットの父親、マイクロフトから協力を依頼され。日雇い労働者としての給料よりも高い金額の報酬に釣られ、お目付け役との行動以外を禁止されたシャーロットの相棒となる。

 

 

そう、シャーロットはまだ未熟、子供である。父親であるマイクロフトの育て方が悪い方向にでも作用したのか、猪突猛進で、しかも騎士に任ぜられている異端審問官たちとは比べられぬほどの弱さで。時にアジア系の異端審問官、ホプキンズに後れを取ったり、ジョンの妹であるアシュリーと不器用ながらに友誼を結んだりしながら。彼女はジョンが導いた先の人狼を、殺し尽くしていく。

 

 

その中で見つけていくのは、何か。 それは「人」として大切なもの。 人狼を狩る為に人間として大切なものを切り捨てていった騎士達が、零してしまったもの。

 

 

それはいつの間にか、マイクロフトの教えよりも大切なものとなり。百年ぶりに帰還した「人狼の王」により争乱の渦中となったロンドンを切り開く力となる。

 

「シャーロット、推理なんかしなくていい!」

 

本来の夢は違う、その筈だった。だけど父親と同じ道を選んでしまった。でも今、この力は補い合う相棒を救う為に。 二人揃って巨悪と向き合うならば、推理は要らぬ。ただ、滅ぼすべきをぶっ飛ばせばいい。

 

どこかすちゃらかな奴らが駆け抜けていく、一種の賑やかさと熱さがある今作品。心を熱くしたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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