読書感想:勇者殺しの花嫁 I - 血溜まりの英雄 -

 

 さて、先にお断りしておくが今から話す前置きに他意はなく、決して個人の主観、主張を貶す意図はないというのをご理解していただきたい。 では、ここから語らせていただこう。さて、神様と言う存在は一口に言っても言い切れずゼウスから天照大御神まで、地域や歴史によって様々な神がいて、更には絶対唯一の神がいるか、色んな神が乱立しているか、というのも別れてくるわけであるが。そもそも、神様と言うのは本当に存在しているのだろうか?

 

 

神様の言葉を聞いた、という人がいるかもしれない。神の言葉を纏めた書物があって、その姿を象った像もあるかもしれない。だがしかし、誰も彼もが神様を見た事があるわけではない。見た事が無いのなら、実在と言うのは証明できないかもしれない。ならば神様はいる、と何で言い切れるのであろうか。

 

 

と、まぁそんな話題はさておいて。 この作品において重要なのは、宗教。この世界における宗教、それが重要なのだ。

 

「このままだと王室や教会の権威を脅かしかねないと”神々が”判断したんだよ」

 

魔法や傭兵、魔物や魔族と言ったものが存在し魔族を率いていた魔王が、勇者によって討伐されて程なくした世界。 当然、魔王を討った勇者の功績は図り切れぬほど大きい者。しかし勇者、という存在に生きていてもらえば、それは何れ既得権益の座を脅かしかねぬ。ならば平和な世界になれば、勇者は不要。 神の加護により、刃物が通らぬ勇者を暗殺すべく。愛に犯して骨抜きにし、刃物が通るようにして殺せという指示を受けて。「昼行燈の枢機卿」と言われる上司、サラマンリウスにより派遣された、異端審問官のアリシア(表紙)。どう考えても無謀な中、勇者がいると言う対魔族との最前線、秘境へとアリシアは向かう。

 

「やめとけ、テメェの理屈は此処じゃ通じねぇ」

 

ガラの悪い傭兵が多数暮らし、血生臭いこの辺境で。そこで出会ったのは勇者と呼ばれる自由傭兵、エルシオンとその師匠である伝説の傭兵、ヴァイス。彼等の魔族の残党狩りの現場を目撃し、幼子ですら容赦なく殺す、というある意味の非道ぶりを目撃し。アリシアの心はかき乱される。

 

 

驚くことはない、それがこの場所の普通。例え幼子であっても、一体に対し多数で容赦なく狩り。どんな風に抵抗してきたか、どう殺したかを嬉々として語る。今まで生きてきた自分の常識が通用しない中知ってしまうのは、エルシオンが実はシオンという少女であるという事。

 

女同士でどうしろと? 頭を抱える中、扱いきれぬ爆弾的な異端審問官、カームまで来襲し。更には殺された枢機卿に続き、新たな枢機卿の犠牲者が発生し。サラマンリウスまで狙われていると言う話を聞き、その身柄を守るために急ぎ向かう。

 

「貴様らなど、我らが本気になれば一年と持たずに絶滅させられると言うのに」

 

そこに迫るのは元魔王軍の幹部、白狼将軍。彼はエルシオンを憎み、意外な真実を話す。魔王の本心、あり得たかもしれぬ和解の未来。それは人間の手で閉ざされてしまい、種族差として絶望的な差のある魔族により、人類はいつでも絶滅させられると言う事。

 

その真実、そして勇者の加護の正体。そこにあるのは救えぬ真実、それでも殺す未来を選ぶのは、それしか自分に無いから。

 

血生臭い疾走感のあるバトルの中、救えなさのある重めな味がある今作品。ちょっとダークめな作品が好きな方は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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