読書感想:転生魔王の魔術師範

 

 さて、ヨホホと笑う骸骨剣士は某海賊漫画の登場人物である、というのは恐らく皆様ご存じである筈なので、そこは置いておくとして。生き返っても、それこそ転生しても尚、忠誠を捧げると言うのは果たして正しい事なのか。例えばもし、魂が同じだとしても。それは同じ人物に忠誠を捧げている事になるのだろうか。

 

 

人間と魔族の長い争いが続いたとある異世界。その争いは終わろうとしていた。魔王であるセイラが、世に安寧を齎す為に勇者であるディアスに討たれる事を選び。それを善しとせず、最後まで抗った魔王軍最強の剣士、ロウガ(表紙左)はあえなく最後の時を迎えてしまう。

 

 だが、最後に施した転生の魔法が確実に機能し、冥界に揺蕩っていたロウガは再び現世に舞い戻る。だがそこは魔王の死から百年が経過し、ディアスの作り上げた帝国により偽りの平和が築かれた世界であった。失意のままに魔王の魂を探し三年、遂にロウガは魔王の転成者を見つけ出す。その名はリリィ(表紙右)。辺境に住まう心優しき普通の村娘である。

 

「すまない、遅くなった」

 

リリィにとっては魔王は極悪人である為受け入れてもらえず。かと思いきや、リリィの身を狙い冤罪により領主軍が襲来し、辺境の村は滅ぼされ。ロウガに助けられたリリィのみが生き延びる。

 

既に彼女が魔王の転生者である事は知られている、ならばどうすべきか。ならばやるべきことは一つ。帝国に対抗する戦力、つまりは魔王になってしまえばいい。その為にも力をつけるべく、魔王軍四天王の一人、シルヴィアが学長を務める名門、ヘルメス魔導学院へと入学する。

 

まずは認めぬ姿勢から入るシルヴィアに三年という期限を設けられる中、リリィは学園で生活する中で、情報屋を務めるミミカや、かつてロウガに師事していたローズマリーと出会い。時にぶつかり合いつつ切磋琢磨していく中、少しずつ成長の兆しを見せていく。その優しさから来る未成熟のカリスマが、かつての魔王の配下であった竜達をも惹きつけ、気が付けば彼女の周りには人の輪が出来ていく。

 

そんな彼女を守る為、ロウガは次々と襲い来る帝国からの刺客との激闘を生き抜いていく。時に自分の命を投げ出しそうになりリリィに救われたりしながらも、事態の背後で魔王が遺した魔剣を狙っていた因縁の怨敵と激突する。

 

「これは百年前の再現などではない」

 

その胸に宿るのは、リリィへの思い。過去の軛とセイラへの思いを乗り越え、改めて持ち直した使えるべき主への思いなのだ。

 

真っ直ぐに成長ものの面白さがあるこの作品。成長に心燃やしたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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