読書感想:また殺されてしまったのですね、探偵様4

 

 さて、前作で朔也の不死性を舞台にこの作品の世界は動き出すと突き付けられたわけであるが、言うまでもないが朔也は半人前の探偵であり、激動を始めようとしている世界に対してあまりにも無力である。だがそれでも、朔也は「探偵」であり、目の前に事件が置かれたのならば謎解きに立ち向かわなければいけない。では今巻では一体、どんな謎が描かれるのか。それはSF的な命題。人間とAIの愛、そして機械と人間の境界線なのである。

 

 

前巻、日本最先端の刑務所である屈斜路刑務所、通称「シャーロック・プリズン」を自らの力で占拠した「最初の七人」の一人(一体?)、「夢見る機械」のフェリセット。朔也やリリテア、一時的に助手となっている哀野たちは彼女の元へと向かい。軍隊による奪還戦が実施されるまで、という制限時間の元、フェリセットから依頼が持ち込まれる。

 

 それは、この刑務所で試験的に運用されているオートワーカーと呼ばれるロボットの一体、ドニアと受刑者である電太の牢屋の中で起きた密室無理心中事件を解決してほしい、というもの。基礎理論を共有するが故に、ドニアの事を気にするフェリセット。だが、ロボット三原則によりオートワーカーは人間を傷つけられぬ。故にこの作品は、決して起きない筈の事件なのだ。

 

そこに込められている真実は何か。ここから先はネタバレとなるので、ふんわりと触れていきたい。

 

死ぬ事で死体安置所に潜り込み、電太の遺体を見て気付くのは残された傷の不審さ。

 

電太の牢屋、隠されていた床下の隙間から見つけたものは、その趣味嗜好を示す者。

 

オートワーカーの運用に携わるラボの研究員たちの力を借り、ロボットたちの世界で繋がる記憶の中に飛び込み見つけるのは、隠されている命令の一端。そして、各々の個性を獲得しつつあるロボットたちが自分達の手で生み出さんとしていた、人が時に縋るもの。

 

そこにあるのは愛。あるものは歪んでいて、あるものは真っ直ぐで。その愛が判定を壊し、人間とロボットの境界を無くし。それが今巻の無理心中を招いたと言うコト。

 

新たな事件を見つめ、愛のあり方を見つめ。リリテアの過去も少しだけ仄めかされる中、次の行き先を導くのはフェリセットから託された断也からの伝言。絶対に気遣う筈のない自身の妻、朔也の母への気遣い。それを母親を訪ねろという事と受け取った朔也の前、生き延びていたフェリセットが現れ、もう一つの伝言を告げる。

 

「遠からず世界は神秘と論理が入り混じり、ボーダーレス化していくだろう。事件も変わっていく。なら探偵も変わらなきゃな」

 

そこに何の意味が隠れているのか。そして「神秘」とは、一体どういう意味を示すのか。

 

更に分からぬ方向へとセカイが踏み込む中、少しずつ色々なものに迫っていく今巻。シリーズファンの皆様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

また殺されてしまったのですね、探偵様4 (MF文庫J) | てにをは, りいちゅ |本 | 通販 | Amazon