読書感想:わたし、二番目の彼女でいいから。6

 

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読書感想:わたし、二番目の彼女でいいから。5 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 

着流し姿で胡弓を背負って、下駄をはいて。我らが主人公と書いてクズと読む桐島。前巻でも語った通りいつの時代だと言いたくなるイメチェンを果たした彼は、確かに変わろうとしている、という部分は我々読者は認め評価すべきなのかもしれない。しかし、果たして人間は簡単に変われるのか、という事であるが。人間、そう簡単に変われたら苦労はしない。それもまた、画面の前の読者の皆様もご存じであろう。

 

 

前巻の最後、再会した橘さん。一年遅れながらも大学に進学し、今や日本中を飛び回りながら活躍する彼女。そんな彼女は桐島たちの通う大学の分学祭で演奏する事となり。応援し見守るだけに留めようとするも、彼女は未だ心の傷を抱えていて。気が付けば彼女を支えんと手を伸ばしてしまう。手放したはずなのに。まるで、まだ手放したくないとでも言うかのように。

 

「私、桐島くんとは友だちにはなれないもん。分かるでしょ?」

 

 

「桐島のこと、もう卒業するからさ」

 

 

つかず離れず、まるで傷をなめ合うように。早坂さんとの関係が傾こうとしても、その先には踏み込めない。一度壊れてしまった絆はもう戻せず、そしてもう、ある程度の位置に戻る事も出来やしない。

 

 

それは宮前も同じである。遅れてきた恋心、今さらながら自覚する気持ち。しかしそれはあまりにも遅すぎる。今は桐島の隣には遠野がいて。彼の心は遠野を求めている。だからこそその思いを断ち切ろうとして、他の関係を求めていく。

 

 さて、ここまで書いてきた中でお分かりかもしれないが、桐島は確かに変えようと努力はしている。エーリッヒに憧れて、全ての愛を何とかしようと究極の京都にする計画なんか立てたりして。それは果たして、本当に成功するのだろうか?

 

結論から言ってしまえば、そも成功する訳はない。彼はエーリッヒなどではなく桐島なのだから。決して奔走するのを評価できない訳じゃない。だけどガワを変えても、根っこはそのままならば。その人が結局変わる訳はない。

 

「私たち、二番目の彼女でいいから」

 

これが皆の為だと嘯いて押し付けて、結局のところは見ていない。彼女達の思いも、自分の思いも。その思いは、桐島の事を彼よりも彼の事を知っている彼女達に見破られ。変わらぬ思いと変わらぬ自分を突き付けられて。新たな選択肢を提示される。

 

 

それは玉虫色の選択肢であるのかもしれない、皆が幸せ、であるのかもしれない。だけどそれは地獄の選択肢だ。結局逃れられなかった、混沌へと叩き落とす選択肢なのだ。

 

より奈落に、より無明に。高校生の時よりも倍以上の混沌へと堕ちていく今巻。シリーズファンの皆様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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