さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様、特に社会人の皆様にお聞きしたい。皆様は、かつて、特に子供時代に抱いていた夢、を叶えられているだろうか。子供の頃に憧れたものになる事は出来ているだろうか。出来ていると言う人もいるかもしれない、しかし出来ていない、という人も確実にいるだろう。大人になるにつれ夢を見失って、現実に打ちのめされて。その内に社会の歯車の一つ、になったという方もきっとおられるだろう。
無論、それは私も同じである。子供の頃に抱いていた夢、というのは実現できていないしそもそも「真白優樹」という名をネット上で名乗っている、という事も思いつかなかっただろう。 というのはともかく、この作品の主人公、IT企業のサラリーマンで二十七歳の蒼真もその一人である。かつてはゲームクリエイターを目指していた彼は、社会に擦れて。今は社畜として、日々面倒事に追われいつの間にか仕事に疑問を感じていた。
「そーまさん、あたしの社畜になってください!」
そんな彼へとある日の夜、ファミレスで声を掛けてきたのは神絵師という裏の顔を持つ女子高生、光莉(表紙)。今まさに会社を立ち上げ、ソシャゲを作らんとしていた彼女は、かつて蒼真が所属していた弱小ゲームサークルが、序章しか出せなかったゲームに魅了された一人。彼女の引き抜きを一旦は断るも、属する会社が買収されプロジェクトが凍結されると言う哀しき目に遭い。失意と怒りと自棄、あと泥酔の果てに彼は光莉の誘いに乗り。彼女が出してきたゲーム案の世界観に魅了された事もあり、彼女の仲間になる事とする。
そのゲームは、大人の自分から見れば確かに穴だらけ。売れるなんて確証もない、そもそも流行る保証すらない。だけど、否が応でも心が揺らされる。忘れかけた筈の夢が、熱を持つ。
気が付けば光莉に自宅をオフィスとして利用されて住みこまれ、彼女の友人であり仲間の美月に認められ、更には謎の3Dモデラ―の凛を味方につけ。子供達の時に行き当たりばったりな開発を、大人としての、社畜としての力でサポートし。熱中できるものを見つけていく。
かつては怒りで仕事をやっていた。だけど今は、確かにあの日感じた思いが胸を突き動かす。だけど彼等のプロジェクトは、世界から見れば穴だらけの未熟なのは確か。時に否定され訝しがられ、それでも挑んで。その果てに融資の条件として、一流企業へと蒼真は引き抜かれていく。
「ようやく僕も、目的のためには手段を選ぶべきではない、ということを学びました」
だけど、この胸の高鳴りはもう止められない。思い出した夢があそこへと、と叫ぶ。 だから蒼真は手段を選ばず、今の自分の立場を投げ出し選ぶ。またその夢に向かう事を。
夢を取り戻し、再起していく、そんな熱さがあるこの作品。心を熱くしたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
Amazon.co.jp: かつてゲームクリエイターを目指してた俺、会社を辞めてギャルJKの社畜になる。 (電撃文庫) : 水沢 あきと, トモゼロ: 本