さて、映画というものは娯楽の一ジャンルとして王道の一つであり、諸人を魅了するものである。というのは画面の前の読者の皆様もご存じであろう。ではそんな映画というものを作る事において、大切となるのは何であろうか。配役を精一杯に演じる演者だろうか。もしくは演者の演技を映画と言う形に変える編集者を始めとする裏方の方々であろうか。
その答えは各自の考えによるものであり、どんな答えでも正解になるものなのかもしれない。
だが、演者も編集者も、映画と言う物語の核となるシナリオが無ければ何も出来ないと言っても過言ではないかもしれない。この作品は、そんなシナリオを描きたい少年が異世界に召喚され始まる作品なのである。
異世界の王国、ティフォニア王国。かの王国は今、近隣の国である大帝国からの侵略の危機に晒され滅亡の危機に瀕していた。人々の希望は既に潰えるばかり、何処にも希望は無い、その筈であった。
しかし、まだ希望は一つだけ残っていた。異世界から召喚された英雄のみが扱える伝説の武器と防具であれば、この絶望的な戦況をひっくり返せる筈である。一縷の望みをかけ王女であるティータ(表紙左)に召喚された少年の名を蒼真(表紙右)。映画好きな何処にでもいる普通の少年である。
が、しかし。画面の前の読者の皆様も表紙を見て、こう思われたのではないだろうか。・・・なんか主人公が妙じゃね?、と。
その通り、異世界召喚の術式の中途半端な失敗により蒼真は身体を地球に残し魂だけ、言わば幽霊のような状態で異世界に召喚されてしまったのである。
幽霊である以上、勿論何も触れない。彼を認識できるのはティータのみ。正に希望は潰え、八方塞がりに見えるこの状況。
「探し求めていた僕の主演女優が異世界にいたなんて!」
が、しかし。蒼真は目を輝かせティータへと告げる。希望は君がなれ、その為の演技指導は自分がする、と。
そう、何も触れない代わりに何処へでも距離を飛び越えて出入りできる幽霊と言う立場。そして、希望となるには十分なティータという逸材。
「アクション!」
まるで映画を撮るかのように。彼の演技指導により、ティータは自信を狙う暗殺者の魔の手を退ける事から始め、妹姫であるフォニカと和解し、帝国との戦争の最前線に立ったかと思えば、王国の内側にいた間者であった猫エルフの蟠りを解いたり、と縦横無尽の活躍を見せていく。
相棒同士のように華麗に活躍していく蒼真とティータ。そんな中、ティータは歴代の英雄に背負わせてきた重荷の重さを知り、そんな彼女を支えたいと蒼真は思うようになっていく。
その最中、帝国の想定外の動きにより戦況は一気に窮地へと陥り、希望の芽は摘み取られようとしていく。
しかし、希望は何処に転がっているか分からないものだ。英雄にしか使えぬ武器と防具、その正体が明らかになる時再び希望は繋がる。蒼真の知識とティータの想いが合わさる時、もう一度奇跡は見せつけられる。
その果て、いつの間にか思い合うようになっていた二人に待っているのは別れの時。英雄譚の最後は異世界に残った英雄と王女が結ばれるものが王道、だがそんな王道は蒼真の願いと反りが合わない以上、叶えられない。
「ティータ、僕の映画に出て欲しい。もちろん主演女優として!」
「はいっ、ソーマさまっ」
だが、王道の形は一つに非ず。一つの映画がクランクアップしたとて物語は終わらぬ。二人の夢、新たな物語の幕が開けるというのもまた王道なのであるから。
様々な味が詰め込まれた中に、一本筋を通した王道ファンタジーの味があるこの作品。
普通のファンタジーに飽きた読者様にはお勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。
異世界監督、シナリオ無双! (講談社ラノベ文庫) | 藤 七郎, 樋野 友行 |本 | 通販 | Amazon