読書感想:午後4時。透明、ときどき声優1

 

 さて、時に画面の前の読者の皆様は声優という職業を題材にしたラノベを読まれた事はあるであろうか。最近であると電撃文庫の作品である「声優ラジオのウラオモテ」辺りがあげられるであろうか。そのような作品から覗き見ることのできる声優業界、というのは中々にシビアな業界である事が多い。少しでも休めば取って代わられ、仕事と言う名の椅子は奪い合い。そんな世界で生きていく、というのは中々に大変であるかもしれない。

 

 

それに最近では女性声優というのは、アイドル的な働きを求められる事も多い。そんな世界で生きている人達は、それだけで尊敬に値すると言えよう。この作品はそんな世界へ、「無色透明」で地味な少女が飛び込み始まるのだ。

 

人生の脇役、憧れだった創作をやってみようと志したら全く目立たず、いつの間にかあきらめにも慣れて。高校三年生の少女、良菜(表紙)。彼女はある日、いきなりバズって有名人となった。しかしそれは、級友が取った動画に写り込んでしまって、その声と容姿が人気声優である紫苑に似ている、というもの。

 

「やれるだけ、頑張ってみます・・・・・・」

 

少しだけわずらわしさを感じる中、やってきたのは紫苑のマネージャーである斎藤さん。彼女がお願いしてきたのは、何と代役。悪天候で足止めされ収録に間に合わない紫苑の代わりをお願いしたい、というもの。拝み倒され渋々引き受け。未熟なりに精一杯頑張って何とかこなしてみたら、帰ってきた紫苑から提案されたのは、衝撃の提案。

 

「わたしと―――入れ替わってくれない?」

 

 それは、自分の代わりに「紫苑」になって欲しいというもの。起業というやりたいことが出来た自分の代わりになって欲しいというお願い。どう考えても無謀、というかそもそも迷惑かも。しかし良菜の心の中、浮かんでいたのはやってみたいという思い。その思いに駆られ、良菜は一先ず半年間の間に斎藤さんを納得させると言うハードルに挑む事となる。

 

 

彼女の代わりとなると言う事は、当然声優業界に深くかかわると言うもの。当然、そこに求められるのは「良菜」ではなく「紫苑」の声。彼女になり切る為に必死に練習し、台本を必要以上に覚え込んで。トップ声優の一人である珠にバレたりしつつも友情を築き、少しずつ声優の世界に馴染んでいく。

 

だけど、試練の時は訪れる。声優であるのならば仕事は椅子取りゲーム、争わなくてはいけぬ時が来る。その相手は、最強の好敵手である珠。

 

「わたしのために、自分の芝居をしたいんです」

 

 負けられない、だけど今の自分では珠に追いつく事も出来ぬ、紫苑に並ぶ事も出来ぬ。中途半端な自分に何が出来るのか? 否、出来ることはある。この世界の「呪い」に囚われ、だけどその呪いをいつか「運命」と呼べるように。必要なのは何か? それは「良菜」だ。彼女の芝居こそが、掴み取る為の大博打に持参するべき武器なのだ。

 

紫苑とぶつかって、斎藤さんに己の意見を告げて。彼女達も博打に賭けさせ、自分自身の声を武器に挑んで。その果ての結果、そこにあるのは願い。

 

「お芝居って、面白いでしょ?」

 

その願いを紫苑に託し、声優業界から離れても、熱は燻り。そこに届けられた結果が、心を再始動させる。

 

「―――声優の世界へようこそ!」

 

そして今度は自分の意思で。良菜は紫苑に手を引かれ、再びあの世界へ、解けぬ魔法に導かれ運命を選んで飛び込んでいくのだ。

 

 

声優、というものの熱さ、輝きがこれでもかと詰め込まれた唯一無二の青春があるこの作品。熱い青春を楽しんでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 午後4時。透明、ときどき声優1 (MF文庫J) : 岬 鷺宮, いちかわ はる: 本