読書感想:記憶喪失の俺には、三人カノジョがいるらしい2

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:記憶喪失の俺には、三人カノジョがいるらしい - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻を読まれた読者様であればご存じであろう。この作品は主人公、勇紀の「記憶喪失」という事態から始まっていると言う事を。確かに自分の中、今までの関係はリセットされた、と言える。だがこうも思わないだろうか。 果たして周囲から見る「勇紀」は、本当にリセットされているのだろうか、と。

 

 

そう、リセットしきれる訳はない。かつての自分を周りだけが覚えている。そして自分に重ねて、過去の自分を見ている。つまりどう足掻いたところで、過去の自分に振り回されるのは明白なのである。

 

「傍から見てたら、俺らみたいな”輪”を全体的に避けてるキライがあったような気がするな」

 

周囲から聞こえてくる、かつての自分の話。どうも朝、早起きが苦手であり。そしてどうも拗らせた中二病のような態度を取っており、「三股ヤロー」という直接的にも程があるあだ名で陰で呼ばれていたらしいと言う事。 面倒を感じながら、しかし過去の自分のイメージが今の自分で消えるまでを待つしかなく。 そんな中でやってくるのは訓練合宿。クラスの連帯感を鍛えるという、今の状況だと無理に等しいもの。しかも夢咲が失墜し、紗季が仕事で後から合流という事で弛緩した空気は牙を剥き。押し付けと傍観の混ぜ物により、夢咲を庇った勇紀が訓練合宿中の合唱コンクールで指揮者を押し付けられてしまう。

 

何とか纏めようとする中、ひょんな事から盗み聞きしたのは、かつての勇紀と明日香が喧嘩していた時期があった、という事。彼女の事を何も知らぬ事を改めて感じる中、彼の事を変わったと評する明日香の言葉に棘を感じ。再びケンカが起きてしまう。

 

 

その根底にあるのは、やはりかつての自分。彼女が思うのは、かつての自分か、今の自分か。もしかつての自分を思うとして、それを取り戻したとしたら。今の自分はどうなってしまうのか。ならば記憶を取り戻すのは正しい事なのか。

 

それに悩む中、彼の心をひなの言葉が救い。そして盗み聞きした明日香の台詞を聞き、覚悟を以て記憶の濁流の中に飛び込んで。勇紀は明日香の事だけに関する、一部の記憶を取り戻す。

 

「君は、私と一緒だから」

 

その記憶の中に隠されていたのは、勇紀には父親と呼べる存在がおらず、母親もとっくに亡くなっているという事。更に浮かぶのは、明日香から告げられた事実。「三股ヤロー」という蔑称は真実であり、三人のカノジョは誰も嘘をついておらず、本当に三人ともに彼女だと言う事、少なくとも明日香はそれを受け入れていたという事。

 

更なる謎が目覚める中、明かされるのは彼女の思い。他の二人とは違う「好き」の感情、その根底にある同族意識が明かされる。

 

より混迷を深め一筋縄ではいかなくなっていく今巻。 前巻を楽しまれた読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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