読書感想:南国カノジョとひとつ屋根のした

 

 さて、DIVE‼という小説があるがあれは高飛び込みを題材にした小説であり、グランブルーと言えば幽霊やアンデットが中核をなす海賊軍団である。ぐらんぶる、と言えばあれはダイビング漫画に分類していいのだろうか。と前書きしてきたわけであるが、画面の前の読者の皆様はダイビングというスポーツについて何処までご存じであろうか。意外と知らない、縁がないという読者様も多いのではないだろうか。

 

 

と、言う訳でこの作品はダイビングを題材にした中々珍しい作品であり、同時にそれをスパイスにしたラブコメなのである。

 

「誰見て育ったんだろうな」

 

母親に先立たれ、世界を股に掛けるカメラマンの父親を持つ少年、葵。かつては陸上競技に打ち込むも、ケガにより挫折してからは熱中できるものを失い。高校二年生になって不登校になっていた彼は、父親がアメリカに拠点を移すに当り日本に残る事になり。父親の伝手で隣県の海辺の町のダイビングショップで居候する事となる。

 

「知らないならさ、いまから一緒にやってみないっ?」

 

 海辺の町で出会ったのは、ダイビングショップのオーナーであるメリアと看板娘であるナイア(表紙)。アクシデントにより初対面からナイアとちょっとぎくしゃくしてしまう中、彼女にダイビングに誘われ。彼女と共に潜った先で目撃したのは、空気以外が全てある見た事もない景色。その景色に魅せられ、葵は少しずつダイビングの面白さに魅了されていく。

 

ナイアとアクシデントを更に重ねてドタバタしたり、彼女のボディーガードを自負する少女、飯川さんに睨まれるもナイアの秘密の写真を餌に懐柔したり。店の手伝いをする中でインストラクターである心美や常連客達と仲良くなったりする中で。熱中できるものを見つけた葵は、ダイビングの資格を取ろうと勉強を始めていく。

 

だがここで勘のいい読者様であれば何となくお分かりであろう。この辺りで何か試練がある事は。その通りである。ダイビング中の事故でナイアが負傷し軽傷で済むも、イップスに陥り海に入れなくなってしまう。

 

「きみが望めばいつだって」

 

 飯川さんは身体は守れても、心までは守れはしない。誰がその心を守れるのか、深みに沈んだその心を引き上げられるのか。それは葵だけに他ならぬ。彼女に導かれ海の魅力に取りつかれた、ならば今度は自分が引っ張っていく番だ。かつての仲間に勇気を出して連絡を取り対処法を聞き出して。葵はナイアを海に誘い、仲間やメリアにも送り出され。再び潜った先で、奇跡の光景を目にしていくのである。

 

何か一つ、たったそれだけ。それがあれば大丈夫というそれだけがあればいい。そんなメッセージも込められたこの作品。正に面白い。青春とは、ラブコメとは。こういうのでいいんだよ、こういうのがいいんだよ、と言いたくなる魅力に満ちているのである。

 

ほっこりする王道のラブコメが読みたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

南国カノジョとひとつ屋根のした (角川スニーカー文庫) | 半田 畔, 紅林のえ |本 | 通販 | Amazon