鮭の塩焼き、ミートボール、卵焼き。今あげたおかずは画面の前の読者の皆様もどれかは「お弁当」の中で見たことは無いであろうか。「お弁当」、それは限られた時にしか食べられぬものであり、いつかは自分で創るようになるかもしれぬもの。では人はそこにどんな思いを込めるのであろうか。 もし誰かに「お弁当」を作るのならば、どんなお弁当を作られるであろうか。
感情が表に出づらく、目つきが悪く。不良に見られがちであり、とある事情により場末の店でバイトしていると言う事情を持つ以外はごく普通の少年、誠也。彼はある日、成績もよいクラス一の美少女、亜理沙(表紙)に一目惚れをした。
「ビンタされた。痛かった」
だがしかし、早速直球勝負と言わんばかりに告白に挑めば何故かビンタされてしまう。それは何故か。何故ならば彼が一目惚れしたのは亜理沙の「弁当」、それも失敗作にしか見えぬ一見してマズそうな弁当だったのである。
当然フラれてもまぁ仕方ない。しかしそれでも、誠也は亜理沙に関わることを辞めぬ。周囲にストーカーかと勘違いされようとも、何処かズレた知識を元に駆け付けて。結果的に関わることが増えていく。同じ時間を過ごすことが増えていく。そんな中、亜理沙は誠也の幼なじみである創やバイト先の後輩である結衣を通したりしながら。少しずつ誠也の事を知っていく。
何処か変な奴である、けれど何故かいつも側に居てくれる。欲しい言葉をくれる。言葉に出来ぬとしても、心が変わり始めるには十分なきっかけとなった。・・・だが、そうは問屋が卸さない。そんな平穏は許さぬと言わんばかりに。誠也のバイト先での姿を目撃し、更には自身の父親からのとある誘いを受けた事により。毒親である母親の死、という不幸に見舞われた誠也との別れは決定づけられる。
別れが決まったとしても、何も選べるものはない。バイト先での誠也の姿がちらつき、どうしても逃げてしまう。その様に傷つきながらも、誠也もまた離れようとする。
「弁当とは愛だ」
だがそれを許さぬと言わんばかりに、創と結衣は背を押して。誠也は何故、亜理沙の弁当に固執していたのか、という思いの根底を知る。そこに込められていた「愛」が欲しかった、それは「人間」としての彼の願い。その願いをかなえるために、別れが迫る中で誠也は弁当を作ることに決める。
「美味しくないよ、牧君」
不器用なその弁当は不味くても。そこに込められた「愛」は伝わる、確かに彼女の心の中へ。
この作品、本当に何と言えば良いのか。「ラブコメ」では、多分ない。あまりにも痛ましくて切なくて重くて苦しくて。だが感情の掃きだめの中でもみっともなくとも藻掻く、その様は。正に「愛」と言うしかないのだろう。
唯一無二の作品を読んでみたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。