読書感想:魔導人形に二度目の眠りを

 

 さて、例えば核の力は使われた後で抑止力として、新たな動力源として存在している訳であるが。戦争の続く時代に生み出された技術、というのは世の中が平和になったのならば不要となる事もある。そんな時、人はどうするのか。取り得る方策の一つとして、封印というのがあげられるのであろう。もう二度と使われる事が無いように、平和な時代への祈りを込めて、と言うかのように。

 

 

この作品における兵器、魔導人形達もまた平和な時代においては不要な兵器であり。封印されるべき存在なのである。

 

操蟲、それがこの世界における脅威の名前。文字通り蟲くらいの大きさの寄生生物であり、人間に取りつきその身を異形に変える蟲。そんな存在に、この世界の人間は「奪う」という本能の元に侵略され。同じく操蟲の力を使い造られた「子供たち」と呼ばれる兵器を用い対抗し、その戦争に勝利した。

 

「処分というのは、こういうことだ」

 

 しかし、平和となる時代に「子供たち」は不要。よって生みの親である魔術師ザリオンにより彼等は封印され。その二百年ほど後、「子供たち」の末弟であるエルガ(表紙右)が目を覚ます。自分が起きていてはいけないと、また封印してもらう為に魔術師を探し動き出す彼。そんな彼の前に広がっているのは、あまりにも変貌した世界であった。

 

滅んだはずの操蟲が支配し、人間が虐げられている世界。行き当たった街で出会った少女、リーニア(表紙左)を操蟲に操られる騎士から救い。街を支配する伯爵の元に捕らえられた彼女の兄を取り戻すべく共に行動する中、驚愕のものを目にする。

 

それは、奪うばかりの操蟲が、いつの間にか社会性を、知性を身に着けていると言う事。個々の力は低下した代わりに知性を、社会性を獲得し。人を愛し慈しむ、という心までも、利己的な考え方も習得していた。

 

正しく変わってしまった世界。操蟲もまた単純な敵ではあらず。エルガに味方する操蟲とも関わり、リーニアに魔術を教えたりする中。それでも再封印を目指すエルガの心は揺れ、そして変化していく。この時代に合わせて。

 

だが、変化できる者ばかりではない。変わらぬ者もいる。先んじて目覚めていた兄、シリオ。忠義の士であった彼は封印を為した者への怒りと、操蟲への嫌悪を変わらず持ち。操蟲だけではなく人間にまで牙を剥き、幾多の死体を創り出す。

 

「約束を果たすぞ、シリオ」

 

最早、彼は同胞に非ず。対話はもはや出来ぬ、決別と激突の未来があるのみ。なんでもできるエルガと、彼より武術で上を行くシリオ。その決着の切っ掛けとなるのは、エルガのみに託されていたとある任務。

 

全てが変化し、謎が様々にばら撒かれた世界観が魅力的であるこの作品。王道に骨太な作品を読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 魔導人形に二度目の眠りを (電撃文庫) : ケンノジ, kakao: 本