読書感想:アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班

 

 さて、「兵器」とは如何なる性能を持っていれば最強なのであろうか。安全性だろうか、信頼性だろうか、それとも破壊力だろうか。その答えは軍事評論家な方にお任せするとして、もし「人間」にそっくりな兵器があったとしたら。自分の意思を持ち、主人の命令に絶対服従という「兵器」があったのならば。それは戦場においてどのような働きをするのであろうか。

 

 

かつて大陸を揺るがす戦争があり、その中で魔術と科学が融合した「自律型魔導兵器」が生まれ猛威を振るったとある世界。戦争が終わり、少しずつ修復の動きが広がっていたとしても、世界はすぐに平和になる訳ではない。心に残った傷は簡単には消えず、一度乱れた治安はそう簡単に元に戻るわけではない。

 

「・・・・・・仕事の時間だ」

 

 そんな中、戦争の爪痕をさほど残さぬ「デルヴェロー市」に置かれた捜査局で働く戦場帰りの青年、テオ(表紙右)。彼はある日、先輩であるトビアスや同期であるエマと共に泥人形のような巨大歩兵型魔導兵器、「アマルガム」が関わる事件を調べる「特捜班」の一員となり。アマルガムらしき存在が関わる違法な地下闘技場を捜査する中、陸軍諜報部から潜入調査に来ていた、「ハウンド」と呼ばれる特別なアマルガム、識別名「イレブン」(表紙左)と出会い。紆余曲折を経て特捜班に加わった彼女と共に暮らすことになりながら、事件を追う事になるのである。

 

闘技場で使われていたクスリの売人を追えば、内側から食い破られたとしか思えぬ死体に遭遇し。更にはヤギのマスクを被った強盗達を追えばその事件が繋がりを見せ。事態はあっという間に初期型のアマルガムと人工義体が絡み合う中で「ローレムクラッド」という新興宗教が関わる複雑な様相を見せていく。

 

「でも、それをしないからこそ、テオは、テオなのですね」

 

 事態は常に後手に回ってばかり。奴等にとってのXデーである平和祈念式典が迫る中。過去に故郷を滅ぼされた事件からアマルガムを嫌悪するテオにイレブンは、学び始めた「寄り添う」姿勢を見せ。兵器ながらも、不器用なその触れ合いが少しずつテオの心を氷解させていく。テオの中で「アマルガム」とひとくくりにしていたはずの存在が、「イレブン」として見れるようになっていく、真っ直ぐに向き合えるようになっていく。

 

「当然だろ。お前ほど役に立つ相棒はいない」

 

事件を通し、共に追いかける中で猟犬と主人として、そして何より相棒同士として。共に成長していくのである。二人で共に。

 

混じり気のないクライムサスペンスの中に相棒ものの絆があるこの作品。サスペンスと警察ものが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班 (電撃文庫) | 駒居 未鳥, 尾崎 ドミノ |本 | 通販 | Amazon