読書感想:30ページでループする。そして君を死の運命から救う。

 

 さて、この作品における舞台である名古屋の街、特に大須の街は突然ではあるが中々にいい所である。地元の街であり私も時折散策しているが、節操のない混沌がとても良い。そこにあった店が一カ月後にはなくなっているかもしれない、というのも良い。入れ替わりは激しいけれど、歩いてみると興味を惹かれる店がきっと一つは見つかるはずである。そんな街を舞台に描かれるのは、ループもの。そのルールは中々に個性的なのである。

 

 

「ここからは全部懸けて救うから」

 

かつて、名古屋で起きたとある最悪の事件により母親を失い、偶々出会った謎の少女に救うと言われるも唐突な別れを経て八年。青年へと成長した主人公、計助は学生と調査事務所の職員の二足の草鞋を履きながら、今さらながら初恋の相手と気づいた少女を探し続けていた。しかし名前も知らぬ、顔ももう覚えておらぬ。気が付けば煩わしいものばかりが増え、何も手掛かりは掴めぬまま。

 

―――戦ってみせよ、かつて救われた悲劇の遺児よ。

 

 そんなある日。大須商店街の古着屋の店主から舞い込んだ目撃情報。だが逸る心を抑え駆けつけ遭遇したのは、初恋の少女と思しき少女が射殺されると言う事件現場。絶望の中、機械仕掛けの神とでも言うべき存在に遭遇し。気が付けば彼の意識は、事件当日に舞い戻っていたのである。

 

訳も分からぬままの彼の前に現れたのは、ペンギンの着ぐるみを纏った謎の少女、時湖(表紙)。彼女は告げる。事態を引き起こす「怪物」との戦いを攻略しなければいけないと。その間で使えるのはたった三十ページだけだ、と。

 

事件を考察する間も、ページのカウントは止まらない。何度か自宅から出れぬままにループし、何とか抜け出し。時湖と二人、事件の原因である拳銃に狙いを定め行動を開始する。

 

だが、当然のごとくループは困難を極める。そもそも拳銃という物騒な凶器が絡む以上修羅場は避けられない。名古屋の裏組織が幾つも関わる事態の渦中に飛び込む事となり、幾度となく傷つきながらも少しずつ情報を集めていく。

 

その情報がまた謎を呼び、その謎を一つ解き明かし。その中で見えてくるのは、時湖との過去の接点。彼女もまた戦っていた、という事。そして彼女は及第点しか出せなかったという事。

 

「全員だ。目に映る誰も彼も救う、そんな一切悲しみのないシナリオを」

 

そう、及第点ではいけない。出すのならば満点を出さねば救えない。満点とは何か? それは悲しみの無いファンタジー。全てを、それこそ敵も味方も全部救って、ハッピーエンドに導かねばならないという事。一人ではできない。けれど二人なら賭けられる。覚悟を決め手を取り合い。二人は最後のループへ挑んでいく。

 

その結果はどうなったのか。それは皆様の目で是非見届けて欲しい。

 

ループものが好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

30ページでループする。そして君を死の運命から救う。 (電撃文庫) | 秋傘 水稀, 日向 あずり |本 | 通販 | Amazon