読書感想:メルヘンザッパーデストロイヤー 英雄になり損ねた男、最底辺スラムで掃除する

 

 終末世界、それはサイバーパンクと言われるジャンルの世界においては舞台となる世界観としても選ばれる事が多い世界観と言える、かもしれぬ。サイバーパンク、それはかつては流行の一つであったもの。しかし今のラノベ界においては中々に見かけぬものであるというのは、画面の前の読者の皆様もご存じであろう。

 

 

しかしこの作品は、サイバーパンクである、ゴリゴリの。敢えて今の時代に放たれたこの作品はどんな面白さを持っているのか。それはこれから語っていきたい。

 

地球外生命体、ヴィトロムの襲来により滅亡の淵に追い詰められ。生存を賭けた戦争の中開発された新世代エネルギー、「メルヘン」を使用可能な少女達による部隊、「ガールズアサルト」。彼女達の活躍により人類は半分の人口と引き換えに辛くも生き残り早二年。復興にあえぐ世界の中、階層型自己完結都市の一つ、スーパートーキョーの外縁区に作られたいわばスラム。通称「ゴースト街」と呼ばれるこの都市に、タクル(表紙左)と呼ばれる男の姿があった。

 

彼はかつて、「鋼鉄装機缶」と呼ばれるパワードスーツを駆り、戦う軍人。しかし「ガールズアサルト」の研究所から資料だけを持ち帰るという命令を無視し、少女達を守る為に部下と奮戦する中、軍の策略により部下を犠牲に生き延びた汚名を着せられ除隊処分を受けた男である。

 

清掃バイトで生計を立てるも、激務に見合わぬ薄給で返しきれぬ借金を抱え。果ては要相棒である「魔女」の生き残り、ミリィ(表紙右)に振り回され地域のもめごとまで解決する日々。借金の主である金融マフィアの娘、クラリスに惚れこまれつつも取り立てられる日々の中感じるのは失意と絶望。その最中、ミリィと共に特殊部隊らしき面々に追われるバケツを被った謎の少女、セーラを拾った事で彼の運命が動き出す。

 

借金も返しきれぬ中、懸命に面倒を見ようとする彼。不器用に始まる交流も長くは続かず。特殊部隊を率いた裏家業の男、リュウの襲来によりセーラは連れ去られてしまう。

 

これ以上踏み込んだところでどうにもならぬ。そもそも、踏み込むべきじゃない。この日常においてはそもセーラは異分子。

 

「大人ってのは、子供に夢を見せてやるもんだ」

 

・・・関係ない。だからどうした。思い出すのはあの日、軍人としての矜持。例え世界に間違っていると言われてもこれだけは譲れぬ。大人としての矜持、守る者としての意地。捨てきれず、忘れかけた思いが今動き出す。それは正にあの日、少女達に見せつけた大人、ヒーローとしての背中。

 

「なんのためじゃねぇ、それが正しいからだ」

 

戦う為の理由なんて要らない、考えるくらいなら戦わなければいい。ただこの行動は自分が許した。自分が正しいと認めた。ならばそれに命を賭ける。

 

始めようか、あの日のような戦場のロックンロール。どうせ行くのは地獄、ならば幾らだって戦える。

 

独特な終末世界の中、煤けたおっさんの泥臭い魅力があるこの作品。独特の世界観に飲み込まれたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。