読書感想:『ずっと友達でいてね』と言っていた女友達が友達じゃなくなるまで

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 さて、友情というものは何よりも尊いものである。そして異性の友達もまた、ラブコメにおいてはテンプレとも言える存在である。だがしかし。永遠に変わらぬ友情、というものは果たして本当に存在するのであろうか? 移ろいゆくのが人の心であると言うのなら。果たしてその友情は本当に不変でいられるのだろうか?

 

 

 だがしかし。今そこにある友情というものは何よりも大切にするべきものであり。同時に、元々の友人関係から発展し始まるラブコメと言うのもまた存在する。そして、この作品においては後者の関係から物語は始まるのである。

 

まるで本当に異世界を冒険しているかのような自由度とゲーム性が売りのMMORPGである「グランドゲート」。主人公であり、かのゲームにおいてトップクラスの腕前を持つ事以外は普通の少年、優真は中学二年生の夏休み、ゲーム内でシュヴァルツと名乗るプレイヤーと出会う。

 

当時は全く知らぬ相手、しかし共に巻き込まれた突発的レイドバトルの中で背中を自然と預け合い、何故か二人でいると様々な幸運に見舞われて。そんな二人が仲良くなるのも、ゲームの中での相棒同士となるのに時間はかからず。打てば響くかのようなやり取りを繰り広げながら同じ時を過ごし、あっという間に二年の時が経過する。

 

「お友達になって、ください!」

 

 中学二年生から二年の時が経過すればどうなるか。高校一年生になる。入学を控えた春休み、ひょんな事から同じ高校に入学すると知り。オフ会のように待ち合わせ、優真が出会ったのはゆい(表紙)と名乗る少女。もうお分かりであろう、彼女こそが相棒であるシュヴァルツの中の人である。

 

生まれつきの白髪を理由にいじめられ心を閉ざしこもりがち。そんな彼女にとって優真こそは唯一の友人。

 

「ゆっくりでいいから」

 

  そして彼は、初めて自分の容姿を悪く言うのではなく受け入れてくれた。認めてくれて変わらずいてくれた只一人の相手。改めてお互いを知り、自分を変えたいと願うゆい。彼女に勿論協力する事になり、義姉であり経営者でもあるネネの力を借り始まるゆいの改造計画。そんな日々の中、ゆっくりと確かに少しずつ。二人の関係は、変化の芽を芽吹かせていくのである。

 

距離感の取り方が分からないからこそ、まるで人懐っこい小動物のように懐いてくるゆいにどきどきしながらも、必死に友人として思いを殺し。

 

時に今までとは違う自分を見せたり、家にお泊りに招いたり。どこか無垢に、大胆に。距離感の近さを自覚できぬままに彼と接し。

 

(もしユーマがわたしのこと好きなら・・・・・・付き合ってあげたら、喜んでくれるのかな・・・・・・?)

 

 そんな日々の触れ合いの中、ゆいの心の中、まだ初恋も知らぬ無垢な心に想いは芽生えていく。何故か彼の事が気になっていく、彼に自分以外の友達の影が見えるともやもやする、どんどんと目が離せなくなっていく。

 

(好きな人・・・・・・できたんだ・・・・・・)

 

 そして、その想いは芽吹き「初恋」と言う名の花になる。無垢な少女の心は初めて知る。恋と言う名の想いの本物を。

 

まるで鏡合わせのように、お互いに特別で大切という思いを与え合い。打てば響くかのように気心の知れたやり取りの中。芳醇なワインを熟成させるかのように、ゆっくりと丁寧に、大切に思いを絡め、深めていく。

 

 その様が、それこそが、甘いもエモいも通り越してただ一言、「尊い」。そんな尊さが丁寧に、緻密に綴られているからこそこの作品は面白いのである。

 

はっきりと断言しよう、今ここに。この作品は、昨今のラブコメ界の中でもトップクラスの新作であると。完全な私見であるがそう言いたい。

 

すべてのラブコメ好きの読者様はぜひ。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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