読書感想:無口な小日向さんは、なぜか俺の胸に頭突きする

 

 さて、喋れないヒロインと言うと心が叫びたがってるんだ。という映画を思い出す次第であるが、無口という部分はクールという要素につなげられる事もある。だが、ラブコメにおいては無口というのは強みとなるのであろうか。というと画面の前の読者の皆様はどう思われるであろうか。台詞という武器を抜きに、魅力を表すことは出来るのだろうか。

 

 

と、いうのは皆様それぞれの考えの元に答えを出していただくとして。この作品のヒロイン、小日向さんこと明日香は、誰も声を聞いたことがないと言う位には無口なヒロインである。だがその可憐さと小動物のような可愛さを以て、周囲からは人気を密かに集めている少女なのである。

 

「・・・・・・何をやってんだか」

 

そんな彼女が自販機の下に五百円玉を落としたのを助けた、この作品の主人公である智樹。幼少期のとある事件により女子にトラウマを持っており、ある程度の時間話し続けると具合が悪くなる彼。気紛れのように彼女を助け、新しい季節に同じクラスとなり。と、思いきや彼に付きまとっている誤解から来る噂に勘違いされ、明日香の幼なじみであり保護者役の野乃を始めとする幾人かの女子から釘を刺されてしまう。

 

そんな所を目撃した智樹の親友、景一から誤解を訂正され、謝りに訪れた野乃をかわしきれず、かと思いきや何故か明日香がお弁当を持って彼の元に押しかけてきて。気が付けば何故か、昼食を一緒に取る事となり。

 

 と、この一回で終わっていれば日常である、だがこの日常は積み重なりだすのである。智樹を心配する景一の企みにより、明日香と野乃が智樹のバイト先までやってきたり、更には家にまで遊びに来たり。彼女達という彩りが加わる中、ふと気が付くと智樹にとって明日香は、楽な相手になっていく。

 

お揃いのストラップを付けたがったり、彼女の家に招かれて破天荒な姉と遭遇したり。更には彼女に、まるで安心したように寄りかかられたり。

 

言葉は無いけれど、その分行動で示してくる。まるで甘えてくる小動物のように、ぐりぐりと距離を詰めてくる。そんな彼女の様子が、秘かな彼女のファンに見咎められてしまった時。明日香はまるで失いたくないとでも言うかのように、智樹に甘える動作をこれでもかと披露する。

 

「晴れるように、一緒にてるてる坊主でも作るか?」

 

そんな彼女の動作は、ファン達の萌えを引き出すことに成功し。また彼等の日常を取り戻すことに成功するのである。

 

無口な小動物系ヒロインに微笑ましさを覚える中、彼女とのかかわりによって少年が少しずつ再生していく。そんな陽だまりのような温かさのある作品であり、にやにやしながらラブコメを読みたい時にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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