さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「不労所得」という言葉に憧れを抱かれた事はあるであろうか。仕事は生きていく上で大切であるが、できる事なら楽な仕事をして稼いでいきたい。そう思われた事のある読者様はどれだけおられるであろうか。無論、自分の身体に負担がかからぬ方法で稼げるのならばそれに越したことは無い。そう言いたいが現実は非情である。生きていく為にはやりたくもない仕事をやらなければいけなかったりするし、そう簡単に仕事は投げだせないのである。
冒険者やギルド、魔物と言ったごく王道の要素が存在しているとある異世界。その異世界の何処か、栄光の中にある帝国。その帝都にある学校を首席で卒業しながらも、面接の段階で社会の理不尽さを目にし、就職の意欲が削がれ。結果的に二年間、のんびりとニートに甘んじていた青年、イルヴィス(表紙中央)。
「お兄ちゃん、あなたを家から追放します」
だが、ある日突然家の大黒柱である妹、アリサ(表紙左)からいい加減に働けと背中を張り飛ばされ。彼が嫌々選んだのは週五日働かなくてもいい、残業もない「冒険者」という職業。だが、まずは就職の第一歩として最大手のクラン「黒竜の牙」の試験に出向き。不合格として追放されてしまったのである。
彼はそんなに無能なのか、というとそうではない。寧ろその逆、彼には才能があり過ぎた。黒竜の牙の最強の八人「八星」、就職試験でそのうちの二人であるフォニックとカーミラ(表紙右)をあっという間に退けるほどに。彼がかつて「神童」と呼ばれたその力は、決して衰えることは無かったのである。
その力を以て、何処にも属さぬ冒険者として世の中へ踏み出すイルヴィス。しかし彼は知らぬ、自分がどれだけ規格外であるのかを。
基本である薬草の採取に向かえば、あっさりと高度な魔術で最高品質の薬草を創り出し。更には最強クラスの魔物である竜を、ただのデカい蜥蜴と勘違いしぶっ飛ばしてしまったり。気が付かぬ間に彼は圧倒的な成果を成し遂げていく。
だが、対照的に「黒竜の牙」は少しずつ凋落の時を迎えていく。それは何故か。何故ならばイルヴィスが気が付かぬ間に「黒竜の牙」の既得権益を脅かし、悉く彼等が得る筈だった利益をかすめ取っていくから。
「これくらい、普通だろ?」
その最中、勘違いと誤解により始まる「黒竜の牙」の幹部との直接対決。だが、彼にとっては何てことはない。本気を出すのは一秒だけ、たったそれだけで事足りる。
何故ならば彼はいい意味で世間を知らぬから。彼はまだ知らぬ、自分自身がどれだけ規格外であるのかと言う事を。
全体的には笑えるコメディであり、勘違いと誤解が生みだすドタバタが腹筋を攻撃してくるこの作品。何も考えず笑いたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。