読書感想:カノジョの妹とキスをした。4

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:カノジョの妹とキスをした。3 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、一年ぶりの新刊であり最終巻となる今巻。博道と時雨、そして晴香。三人での間の「不純愛」を描き、そのジャンルの先駆けとなり開拓者となった、と言っても過言ではないこの作品。だがこの作品は、作者様曰く「純愛」であるらしい。純愛、と聞いて首を傾げる読者様もおられるかもしれない。だが、純愛の本質とは「執着」、貴方がいない世界に意味はないと言う程の気持ちであるのなら。この作品は「純愛」と言えるのだろう。

 

 

「ああ、芸能界でやっていきたいなら、余計なことは言うもんじゃないぜ」

 

前巻、因縁の相手である大人、高尾に理不尽な要求を突き付けられ、だが何の力もない晴香はその要求を呑むしかなく。芸能界と言う世界の闇に心折れ、その心は博道を求め。けれどその傍らには時雨がいて、彼女達の咄嗟の白状により何とかその場は取り繕われる。

 

「上手く行かねぇもんだなぁ・・・・・・」

 

だが、演劇部部長に求められ、演劇部を退部した晴香を懸命に支えようとするも。今更向けられるその感情に、隔たりをどうしても感じてしまう。何故今更、というやるせない思いが渦を巻く。

 

「触ってくれないんですか?」

 

その心の中心、そこにいるのは時雨だ。とっくの昔にそこは彼女の居場所だ。更に猛毒と言う名の愛情を、彼女は博道に注ぎ込んでいく。どんどんと、彼をその毒で酔わせていく。

 

その様を、問い詰められず。だが女の勘は雄弁にその事実を悟り。思わず投げかけた呪いの言葉で、望んだ未来を壊してしまい。まるで縋りつくように、逃さないと縛り上げる様に。焦燥感に駆られる晴香の想いが、暴走を始めていく。

 

だが、縋りつけば縋りつくだけ、咄嗟に出てくる博道の反応が拒絶を示す。どんな手を取ってその心を掴もうとしても、その心が掴めない。

 

「どうしておにーさんの気持ちに気付けないのか。そんなのは簡単な話ですよ」

 

時雨から突き付けられる、その答え。今の彼ではなく思い出の中の彼が好きだったから。だからこそ今の彼を見ていない、変われなかったと言う答え。

 

「別れよう。晴香」

 

今更つかんだ過ちの理由、だけど反省も後悔ももう遅い。もう一度向き合い、きちんとさよならを告げて。二人の路は本当に分かれる。

 

 そこで済んでいれば、ある意味ハッピーエンドだったのかもしれぬ。だが、傷心の晴香は事故に遭い、三か月分の記憶を無くしてしまい。関係が元に戻った事で、博道は晴香に縛り付けられる。

 

「愛してますよ。おにーさん」

 

内心を吐露する博道を時雨は受け止め。破綻した関係は未来へ進む。結婚した、子供も出来た。だがその裏、二人の秘密の関係はこれからも続く。いつ割れるか分からぬ薄氷の上、ささやかな幸せだけを望んで。

 

晴香も時雨も、そして博道も。三人ともに、相手に執着している。君がいなければ生きていけぬ、その思いのままに嘘の上で幸せを築いていく。

 

それは、不純か。それとも純愛か。

 

その答えは是非、皆様の目で見出してほしい。