読書感想:私、救世主なんだ。まぁ、一年後には死んでるんだけどね

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様は一年後、特定の機会に死んでくれと言われたら、喜んで死ねるだろうか。それも殺されるのでもなく、自殺するのでもなく。自らの意思で死ね、と言われたのならば。皆様はちゃんと心残りなく死ねるだろうか。

 

 

ごく普通の少女、風花(表紙左)。彼女は「救世主」である。それは比喩などではなく、文字通りの意味である。一体どういう意味なのか? それはこの世界には「罪華」と呼ばれる人の罪から生まれる穢れの化物が存在しているから。例え殺したとしても、その死骸から穢れが大地に沁み込むのは抑えられぬ。唯一、完全に抑え浄化する為には「救世主」の死により発動する力が必要なのだ。しかもその発動は彼女の自由意思に委ねられている。

 

「僕でよければ、喜んで」

 

 だからこそ彼女を守る為に、そして彼女の望む事を全て叶え与える為に存在する秘密期間、「聖墓機関」。その戦闘員である「背神者」の一人である少年、燐(表紙右)。彼へと彼女が望んだのは、恋人になる事。組織の一員である以上、そのお願いを断ることは出来ず。彼女との仮初の恋人関係となる所からこの作品は幕を開けていくのだ。

 

彼女が記したやりたい事を記した「救世主ノート」。そこに記された内容を叶える為に二人で出かけたり、夏に虫取りをしたり。更には監視の目を盗んで祭りへ繰り出したり、文化祭を楽しんだり。

 

風花と恋人同士として過ごす表の日常、その裏で謎の少女、アネモネを相棒として罪華を夜に駆け狩りつくす裏の日常。二重生活を送る中、燐は徐々に気づいていく。今まで蝶よ花よと大切にされて育てられ、外界から隔離されて育てられ。そんな彼女は「救世主」である前に一人の女の子であると言う事。

 

 そんな彼女だからこそ、ひょんな事から知ってしまった事実に心が耐えられぬのも仕方のない事かもしれぬ。全てが組織の手により仕込まれていた、という事実を知り、何もかも放り出したいと破れかぶれに。燐と共に彼女は逃げ出していく、当てもなく。自分の役目から目をそらすように。

 

「私、やっぱり世界を救うことにするよ」

 

 だが、その逃避行の果て。この作品の舞台、そして物語の根底はあっという間に覆される。ふと感じた違和感が一つに繋がり、一気に攻めてくる。そう、もう全ては   だけど世界は     

 

 どういう意味なのか、そう聞かれると答えられぬ。だが、公式サイトの重大なネタバレの欄にもある様に。時の流れは      

 

「―――なら、ずっと恨んでてくれてもいいから、最期まで私と一緒にいてよ」

 

そう、この作品は燐と風花、二人の為だけのお話なのである。何も救えず、心に喪失を抱え。それでも、大きな使命を背負わされても。それでも、必死に生きていく物語なのである。

 

故にこの作品は只のラブコメではなく、只管に重い。だからこそ面白いのである。

 

ここにしかない作品を読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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