読書感想:春夏秋冬代行者 夏の舞 下


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読書感想:春夏秋冬代行者 夏の舞 上 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 

 さて、命が芽吹く中に恋も芽生え、燃え上がる夏という季節。前巻、双子の代行者となってしまった葉桜姉妹もまた己の恋に揺れ、彼女達の首を挿げ替えんとする汚い大人達により離間の危機に晒されている、というのは前巻を読まれた読者様であればもうお分かりであろう。彼女達は自分達に向けられた批判を覆し、婚約破棄も覆すべく「黄昏の射手」、輝矢と合流を果たした。では今巻では一体、前巻から続く騒動は何処へ進むのだろうか。

 

 

暗狼事件の裏、ふと蠢くのは代行者護衛官と同じ立ち位置の守り人の少年、慧剣の影。輝矢の妻と出奔し行方をくらまし、しかし今、彼へと何かを訴えかけようとしている、必死な思い。

 

その思いに迫る為、葉桜姉妹は輝矢へと協力を申し出。彼もまたそれを了承し、今ここに「夜」と「夏」の共同戦線が形成され。代行者の首のすげ替えを狙う陣営たちに、まるで宣戦布告するかのような文面を送りつけて。暗狼事件の解決の為、独自の動きを始める。

 

 それは保守派の「老獪亀」、革新派の「一匹兎角」、どちらにとっても許しがたいものであり。葉桜姉妹のどちらかだけでも害しようと、部隊が密かに送り込まれる。だがその場に集うのは、彼等だけではない。他の四季の代行者達が団結し形成されたチームもまた、姉妹を救い事態を解決する為、竜宮へと乗り込んでいく。全てが集い決戦の舞台となるのは、竜宮岳。四季の代行者達にとっても必要な場所である霊山。山狩りの場、全ての勢力が入り乱れ、散々に乱れ各所で合流し。状況は二転三転し、幾度も始点が切り替わる。

 

「・・・いま見せられない顔してるから」

 

雛菊に褒められた狼星が単純にも悦び、その歓びを胸に雛菊と共に舞い、激突の現場を一気にひっくり返し、阿鼻叫喚の地獄を顕現させる。

 

その最中、連理と雷鳥の元へ慧剣が現れ合流し、暗狼事件の真実は期せずして明らかとなり、そこに込められていた切ない思いが明らかとなる。

 

「ただ、私がそうして欲しくないだけだ」

 

「絶対に、絶対に、連理さんのお嫁さんになります・・・・・・」

 

「誓いの言葉なんてなくても、死ぬまで一緒よ」

 

 思いが巡り、ぶつかり合う。それぞれの思いが向き合い、交じり合う。事件の裏と表、様々な場で巡るのはそれぞれの愛。時に不器用で、時に優しくて。時にどこか真っ直ぐで。現人神も、護衛官も。神でも人であっても変わらない、ごく当たり前の思い。その当たり前がこれでもかと詰め込まれ、芽吹いている。だからこそこの巻もまた、沁みいる様に面白いのである。

 

前巻を楽しまれた読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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