読書感想:君は僕の後悔3

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:君は僕の後悔2 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻と最初の巻でこれまで藍衣と薫がそれぞれに抱えた「後悔」というものを描いてきたこの作品であるが、今巻もまた知られざる「後悔」が描かれる。しかし今巻は結弦たちが主役、という訳ではない。それもまた当然のことかもしれない。彼等の後悔はもう綴り終えてしまったのだから。なれば今巻は誰の後悔を描くのか。それは表紙からも分かる通り、李咲の「後悔」。読書部の幽霊部員である彼女が抱えた、これまでにも増して痛ましい過去と後悔である。

 

 

期末テストも終わり迎えた夏休み。結弦達三人は友人である壮亮の提案により二学期の学園祭でバンドとして活動することになり。早速夏休みに練習することになりながら、四人で海に行ったりと高校生らしい夏休みに飛び込んでいく。

 

 しかし、バンドのベースとして壮亮が望んだ李咲の演奏、それはすげなく拒否されてしまい。スタジオを借りて、壮亮の先輩である美鈴に師事し。更には他人に気兼ねしない練習場所として李咲の家を借りる事になり。結弦は彼女の家のガレージ、誇りを被った電子ドラムセットを目撃した所から彼女の過去、「後悔」に触れていく。

 

「あたしの”音”は・・・・・・とっくに死んだんだ」

 

それは今までの誰よりも重い過去。言葉と言うものに込められた「嘘」、人の黒い内面を見てしまい、そして高名なベーシストだった親父に最悪な形で裏切られ。自分の音を信じられなくなった、だからこそベースを手放し、痛みこそを世界の真実と捉えてしまったと言う事。

 

 その過去には、手は届かない。起きてしまった結果は変えられない。ならば、その「後悔」に手が届くのは誰か。それは壮亮に他ならぬ。結弦の言葉で引き出せても、彼女の心は変えられぬ。彼女を引っ張りだすのに必要なのは「言葉」じゃない、「音」だ。言葉にならぬ、けれど何よりも雄弁に語る奔流なのだ。

 

『俺の中に残ったあの音を、命の限り、弾いてみせます』

 

後夜祭、本番のステージ。皆で音を奏でた先、壮亮が一人不器用に奏でるのは李咲の遺した歌、彼女の父親の為の歌。過去においてきた筈の音が李咲の心を揺らし、忘れかけていた思いが心の中で叫び出す。彼女を荒々しく押そうとしてくる。

 

「李咲の気持ちを・・・・・・教えてよ」

 

美鈴により届けられたかつての相棒。懐かしいあの感触もまた、彼女の心に火をともす。

 

「・・・・・・馬鹿だな、ほんと」

 

―――心が叫びたがっている、また話したいと吼え猛ける。気が付けばステージの上、彼女の「音」は再び目を覚ます。やっと気付いた父親の本心を胸に、不器用で不格好でも。それでも話したいと、壮亮の音に絡んでいく。

 

それは誰にも否定できるものではない。例え不格好でも、これは二人だけのステージなのだから。

 

切なく激しく、そして熱く。更に痛みと重さを増した後悔の先、波乱の予感が待つ今巻。

 

シリーズファンの皆様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

君は僕の後悔 3 (ダッシュエックス文庫) | しめさば, しぐれうい |本 | 通販 | Amazon