読書感想:幼馴染だった妻と高二の夏にタイムリープした。17歳の妻がやっぱりかわいい。

 

 さて、「タイムリープ」と言えば「涼宮ハルヒ」のエンドレスエイト、という話が真っ先に思い浮かぶ私は恐らく古のオタクに片足を突っ込んだ存在であるのだろう。それはともかく、「タイムリープ」というのは同じ時を何度も繰り返すものであり、その解消のためには何かしらの条件を達成し、いわばクエストを達成する事が求められることが多い。ではこの作品はどうなのか。

 

 

大阪のソフトウェア会社に勤める社会人、篤。貯金そこそこ、特に特別な事も無いけれど平凡な幸せを享受する毎日。

 

「青春、やり直さない?」

 

 だがしかし、彼はある日突然十四年前、高校二年生の朝に舞い戻っていた。しかも幼馴染であり後の妻でもある千帆(表紙)と共に。が、ここで二人には共通の疑問が一つ。それはタイムリープする原因がまるで分らなかったという事である。

 

死別するフラグもなし、別れるフラグも無論なし。普通のラブラブ夫婦として、平凡にゴールデンウィークに入ろうとしていた、それだけなのに。タイムリープについて意見を交え食い違いながらも、一先ずは過去での日常を過ごすことになる二人。

 

そんな中、千帆は篤へとぐいぐい迫り。一体なぜだと首をひねる彼に憤慨し。訳も分からぬままに再びタイムリープは発動し、何度も過去をやり直すことになってしまう。

 

 ある時は、学校をサボったデートの最中に。またある時は、後輩である郁奈の思いに向き合わなかった場面を目撃したときに。何度も巻き起こるタイムリープの中、一体この事態の元凶は何処なのか? 向き合うべきは、誰なのか? 級友である志野の意見を仰ぎ、友人である良平に背を押され。篤は本当に向き合うべきものに向き合い、見つめ直していく。

 

すぐ側に居たタイムリープの元凶。何故何度も時を巻き戻すのか。それは、高校時代は絶交状態であっても篤を心から思っていたから。そして同時に、郁奈の事も。大切な友人であるからこそ、その思いに幕を引きたかったから。人知れず決着を付けようとしたのだ。

 

「バカだよ、君は。そんなことで僕が君を嫌いになるはずないだろう」

 

もうお分かりであろう。事態の中心、その力の持ち主は千帆である。一人迷い、彼を想うが故に一人で決着を付けようとした。けれどそれは正しい事か。そんな独りよがりな決断を、許容しても良いのか。

 

「夫婦なんだよ。困っているなら、もっと話し合おうよ」

 

 否、そんな訳はないだろう? 青春は君無くしてはありえない、人生は君なしではいられない、幸せは君とでなければ紡げない。「一人」ではなく「二人」、夫婦なのだから。いつの間にか見失っていた二人の形、過去でもう一度見つけ出し。やっと本当の意味で欠けた時を取り戻し、もう一度心を繋げ響き合う。

 

元通り、それどころか更に強くした絆。その絆の前ではもう、タイムリープも便利な能力。過去への一方通行、それは心行くまで青春を楽しめると言う証明に他ならぬ。

 

謎に迫りながらも夫婦と言う形をとるが故の甘々を。そう言わんばかりに甘いだけではない複層的な面白さのあるこの作品。正に悦い、至高の面白さである。故にもっとこの作品は続いてほしいし、世界をもっと広げてほしい。まだまだ時間はあるのだから。

 

甘いだけではないラブコメを読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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