読書感想:エンド・オブ・アルカディア

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様にお聞きしてみよう。皆様の大切な人が亡くなられたとして、その人がもし、生前と全く変わらぬ新たな身体で、生前の記憶を持ち合わせたままに蘇ったとしたら。それは「本人」と呼べるのだろうか。それとも、「別人」として扱うべきなのであろうか。

 

 

という問題の答えについては各自考えていただくとして、この命題を覚えておいていただきたい。何故ならば、この「蘇生」と呼ぶべきであろう事象がこの作品においては重要だからである。

 

クローン技術と記憶のデータ化、二つの技術が発展し永遠の命に手が届きだした近未来の世界。かの世界で実装された画期的なシステム、「アルカディア」。クローン作製と記憶のデータ化、二つの技術を統合した人類再生システム。しかし、永遠の命に手を届かせるはずのそのシステムには問題があった。

 

 それは、記憶の転写はニ十歳以下の若き脳にしか出来ないという事。故、その技術が実装された戦場で戦うのは必然的に子供達。エルメアとローレリアという二つの国がぶつかり合う戦場で。死んで蘇生を繰り返しながら戦う少年、秋人。殺すのが当たり前の戦場で心に湧き突き刺さった疑問。その疑問が、秋人の手から殺すという気力を奪い去っていた。

 

必然的に招かれる、殺害数の低下。対人スコアの低下により戦績不振となってしまい。秋人は仲間と共に、全滅からの蘇生が必須な困難任務、とある施設からの機密情報サルベージ任務を命じられる。

 

 否応なく出撃し、巻き起こる遭遇戦。施設への被害を考えず戦った結果、秋人は電波が通じず「アルカディア」にもアクセスできぬ地下へと落下してしまい、そこで一人の少女と出逢う。彼女の名はフィリア(表紙)。今まで幾度となく戦ってきた敵軍のエースである。

 

「―――でも地上に出た瞬間殺すから」

 

「やれるもんならいくらでも」

 

生き延びる為には致し方なく一時休戦し、地上を目指し始まる脱出行。ある時は物資を調達したり、狩猟で食料を仕入れたり。謎の機械達との遭遇戦を幾度も経ながら、何とか辿り着いた地上への出口。

 

 だがしかし、世界は唐突に牙を剥く。別れる前に二人で閲覧した目的のデータベースの中に秘められていた驚愕の真実。その真実を回収に来た黒幕の刺客に容赦なく屠られ、蘇生して早々、二人は忌避と不信の視線を向けてくる仲間達と共に戦場で向かい合う。

 

普通ならば、今まで通り殺し合えばよいはずだった。しかし、何故かそれができない。今まで以上の高速の戦いの中、最後の一手が詰めれない。

 

「―――お前のことが好きなんだよ!」

 

「答えが聞きたかったら死なないで」

 

 何故か、それは恋をしてしまったから。叶えたい望みが出来たから、倒すべき敵が分かったから。決意したのならば切り替えは一瞬、幾度も繰り返した激突から生み出したコンビネーションで背中を預け合い。秋人とフィリアは共に飛び出し、黒幕を追い飛び立っていく。

 

「―――ダチを信用しなかった俺が馬鹿だった」

 

その背を支えるのはお互いだけ、ではない。姿を見せた黒幕の明かした思惑、その真実を知り両軍の兵士は協力を開始、一丸となって立ち向かっていく。

 

「俺たちはあんたらの人形なんかじゃない、一人の人間なんだ‼」

 

 全員の力を合わせ、黒幕へと叩きつけるは反逆の牙。反逆の歌を響かせ、断ち切るのは繰り糸。 糸が切れた人形には人間になる資格が与えられると言うのなら。今ここに始める、「人間」としての第一歩。それは進化の否定、世界の否定、理想郷の否定。そして彼等の、大いなる一歩なのだ。

 

最高で最悪のボーイミーツガールから始める、最高で最悪のコンビの反逆譚。正に王道ど真ん中、真っ直ぐな感情が迸っているからこそ。この作品、SFものとして一つの極致であると言いたい。

 

SFバトルが好きな読者の皆様、心燃やしたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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