読書感想:暗殺者は黄昏に笑う2

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:暗殺者は黄昏に笑う1 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 この才能も感情も、捧げる先はただ一つ。自身が守るべき対象として見出した「天使」の少女、ミルを守る為に自分達にとっての平穏を脅かす者は、例え知己の相手でも必ず殺す。知聡ことチサトの生き方は前巻を読まれた読者様であればもうご存じであろう。しかし、そんな生き方はいつまで続くのであろうか、と画面の前の読者の皆様は思われたことは無いであろうか? 逃れられぬ殺しの才能、それを振るうごとに自らの心を殺し切り捨てているようなもの。そんな生き方はいつまで続くのだろうか。

 

 

しかしそんな彼にもミルと出会う前、希望に満ちている時があった。自分の力で何かを救えると妄信していた時があった。その、チサトの心が折れる少し前の時期。そこから続く因縁が彼を追いかけてくるのが今巻である。

 

解体し借金を返し、今日も続く日々。その日々の中でチサトの元へ一つの再会が訪れる。再会の主の名は、マリー。今の住処である大陸に来る前にいた最初の大陸、そこで世話になっていたロットバルト王国の第一王女である。

 

 だが、その護衛でもありチサトにとっては知己の相手でもある獣人、ピルリパットは隠し切れぬ憎悪を彼に向ける。それはマリーの兄である王子、フリッツをチサトが殺めたという過去があったから。だがそれを制しマリーは衝撃的な事実を告げられる。第一王子であるルイスが国王夫妻を殺害し、王国を乗っ取ったという話を。

 

関わったのも束の間、ルイスが操る大量のネズミに襲撃され、関わらざるを得ず。敵の目を惹きつけると共に王国で迎撃の準備を整える為、チサトはマリーの護衛として王国がある大陸へ戻る船へと乗り込む。

 

 だが事態はそう簡単ではない。魔物の襲撃後、船内で二つの密室殺人事件が発生し。更には辿り着いて早々、国民の不満から来る暴動の中でルイスの次なる一手が発動し。多数の人の命が傷つき、否応なく決戦の幕が上がり。―――だが、その決戦の最中、全ての真実は繋がり白日の下に晒される。最初から狂っていた国と彼等の関係の裏、全ての裏で糸を引いていた黒幕の思いが明かされる。

 

思えば、端々に既に伏線は秘められていた。何気ない言葉の裏に隠れていたのは狂気。悍ましい程に、醜悪なほどに。只一人を愛し同じになりたいと言う思い。

 

「・・・・・・お前は、悪だ! 最低で最悪で最凶で最狂の害悪だっ!」

 

その思いを受け入れるわけにはいかぬ。何故なら既にチサトの愛は相容れぬから。ミルとの平穏を侵す全てを殺し尽くすと決めたから。だから救いたいと言うどうしようもない甘さも殺して黒幕を殺す。ただ、生かしてはおけぬから。

 

殺して殺して殺し尽くす、だがどんどんと追い込まれていく。まるで運命がミルの正体を明かそうとせんばかりに、チサトが望む平穏は壊されていく。

 

だからこそ、もうすぐそばまで来ているのかもしれない。全てが露呈してしまう時が。

 

より仄暗く、よりビターに。面白さが奥行きを見せ深まる今巻。前巻を楽しまれた読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

暗殺者は黄昏に笑う 2 (オーバーラップ文庫) | メグリくくる, 岩崎美奈子 |本 | 通販 | Amazon