読書感想:恋を思い出にする方法を、私に教えてよ

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様は失恋と言うものの痛みを引きずられた事はあられるであろうか。忘れたい失恋、思いでにしたい恋。そんな恋を経験された事はあられるであろうか。失恋を振り切る、というのは簡単にいくものだろうか。それは各個人の心のスタンスによる違いもあるのかもしれない。しかし、すぐに忘れられる人もいれば、中々に忘れられぬ人もいる。そんな違いがあるのも、きっと確かな事であろう。

 

 

では失恋の痛みを忘れたい時、画面の前の読者の皆様は何か頼るものはあられるであろうか。それもまた各個人によって違うかもしれない。

 

 ではもし、恋心を消してくれる力を持った人がいたとしたら。あなたはその力に頼ってみたくなるだろうか。

 

高校一年生、かつて名も知らぬ少年に助けられた過去を持ち、その背に憧れ自分もまた彼のようになりたいと願い。結果的に才色兼備で人望が厚くなり、クラス中から頼られるようになった少女、葵(表紙)。

 

 だがしかし、彼女は恋愛感情と言うものが苦手であり、恋愛相談は実は専門外であった。そんなある日、彼女は級友の目が死んだ少年、孝幸がビジネスホテルで謎の行動をとっているのを目撃し、思わず疑いを持って問い詰めてしまう。

 

「俺には、他人の恋心を消す力があるんだよ」

 

「大丈夫、誰かの恋心なんて、菓子を摘まむみたいに食ってしまえるんだからさ」

 

しかしそんな彼は、自分は「恋心を食べて消す異能」を持つ「恋愛カウンセラー」であると嘯き。半信半疑ながらも彼のカウンセリングと異能を行使する瞬間を見届け、信じざるを得ないものの、監視すると言う目的の元に彼と協力関係を結ぶ。

 

 仮初の相棒関係となり、彼女は新鮮な驚きと共に様々な形を取った恋心へと向き合っていく。そしてそんな中、孝幸という少年の心の内へと迫っていく。

 

彼こそがあの日、自分が憧れたヒーロー。だがその輝きは既に彼にはなく。では一体、その輝きは何故なくなってしまったのか。それは孝幸が払った代償のため。一人のヒーローに憧れた少年が、折れた末に「魔女」との契約により化物へと変わってしまったと言う、悲しき事実。

 

「ねぇ、馬鹿にしないでよ」

 

「――――――でも、恋をしたいのでしょう?」

 

 だけど、それでもと。葵は半ば強引に、孝幸の心へと手を伸ばし、自らに向けられた告白に心揺らす彼へと己も気付いていなかった心の在り方を突き付ける。本当は自分が何を望んでいたのか、その答えを見せつける。

 

それは恋心ではなく、けれど彼を大切に思うからこそ。彼の事を一番に思うからこそ。

 

「俺の相棒として、隣で見張っていてくれ」

 

その思いは、孝幸の心を少しだけ確かに揺らし。彼は己の残滓を一歩超え、少しだけ前に踏み出していく。地獄の果てまで相乗りしてくれとでも言うかのように。恋ではなくとも大切と言う思いを持って。

 

 何処か臭くて、けれどそんな青臭さこそが青春の証。そんな少し不思議な恋愛未満の感情が、何処か切なくも温かいこの作品。

 

中々に王道、故、其れゆえの面白さを持っているのである。

 

少し不思議なラブコメを読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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