読書感想:私のほうが先に好きだったので。

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 さて、三角関係と言うものについてまずは画面の前の読者の皆様に思い浮かべていただきたい。三角関係、主にライトノベルにおいては男子一人と女子二人により構成されるものであろう。では、その女子二人の勝負の材料において、「どちらがより早く、先に好きになったか」というのは勝負を決める材料となり得るのか? その答えは、簡単には出るものではないのだろう。なり得る場合もあるし、なり得ぬ場合もあるであろうから。

 

 

さて、それでは続けて想起してもらいたい。今度は失恋について。失恋は、男性は引きずるもの、女性は引きずらぬもの、と定説の一種で叫ばれている。

 

 ではもし、男子も女子も失恋を引きずってしまったのなら、それはどうなるであろうか。それこそがこの作品なのである。

 

報道部部長で嘘が苦手な少年、玄(表紙左下)。彼の幼馴染であり、クール系の美少女、小麦(表紙右)。二人はかつて秘密の恋人同士であった。しかし、幼馴染を長くやり過ぎてしまっていたからか、上手くいかず別れてしまう。

 

 「幼馴染」にも戻り切れず、「友達」にも戻れず。お互いの事を忘れられず、引きずってばかり。そんな中、小麦は親友である桜子(表紙左上)を玄へと紹介する。彼への恋を忘れぬ為に。しかし、それは歯車を決定的に狂わせる致命的な一手である事を、まだ誰も知らない。

 

「わたしを利用するってのはどうすか?」

 

「これから、わたしの一割は、安芸くんのもの」

 

忘れられぬ人がいる、それでも良いと必死に玄へ桜子は思いを届け。自分に対し、真っ直ぐに向けられる好意に戸惑いながら。少しずつ、手探りで。恋人同士として何でもない事を、始めようとする玄。

 

しかし、それで忘れられると思っていた小麦は大いに心をかき乱される。二人の間に立つ者として、玄の友達として関わる機会が増え。忘れるどころか、不器用な二人を見て更に心をかき乱されていく。

 

 はじまりは、なんてことは無い相談だった。だがそれすらも、もしかしたら悪手であったのかもしれない。初めてのデート、そこに迫る悪意。更にその先の玄の思いの自覚。その思いが小麦の心を散々にかき乱す。その思いこそを望んでいたはずなのに、その思いが悪夢の呼び水となっていく。

 

「いっちゃ、やだ・・・・・・」

 

「私のほうが先に好きだったんだもん・・・・・・」

 

昏い思いは隠せない、忘れられぬ恋は心の内側爪を立て、心を壊し決壊させる。隠し通すはずだった想いは、隠し切れずに燃え上がる。

 

―――わたしのほうが先に好きだったので。

 

―――私のほうが先にすきだったので。

 

その裏、桜子の天使の仮面の裏、小悪魔な顔は本気の恋に燃え上がり。策略を巡らせ始める。

 

 嗚呼、この恋は焦げ跡である。こびりついて中々とれぬ、火傷になった恋である。放っておけば化膿して、心に染み込んでくる恋である。

 

正に胃が痛い、しかしこれこそが恋だというのなら。まさに、この作品は「ラブコメ」である。

 

胃が痛くなる恋路が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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