読書感想:コロウの空戦日記

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「板野サーカス」という言葉をご存じであろうか。知らないと言う読者様はとりあえず今から「マクロスシリーズ」を履修してきて欲しい。ミサイル一発からでも創り出すことのできる、圧倒的なスピード感と迫力に溢れる技法はいつだって我々の心を魅了するものであるはずなので。

 

 

という前置きはさておき、飛行機と飛行機が空を駆け銃弾を交わしぶつかり合う空戦、それはいつだって我々の心を魅了してきたものであり、そこには様々な人間模様とドラマが溢れている。

 

 それはこの作品においても然り。この作品に溢れているものは何か。それは、一人の「死にたがり」な新米パイロットの日記を通して描かれる、敗北しか先にない戦争の中で舞うパイロット達の覚悟と命の輝きである。

 

ツトツ海という海を挟み並ぶ、コクト国とルシュウ国という二つの国。その片割れであるコクト国は腐敗を一人の独裁者が打破、繁栄に溺れるもその後を継いだ二代目の無能により衰退の一途を辿り。無能な独裁者の暴走により、ルシュウ国へと「第三次コル戦争」と呼ばれる戦争を仕掛けていた。

 

 無策の上に始まった戦乱は、最初の方こそコクト国が連戦連勝するも、物資の不足とルシュウ側への大国の参戦によりあっという間に趨勢を覆され。気が付けば戦力は壊滅、国土が戦略爆撃に晒される敗北は避けられぬ状況であり。そんな中、早期警戒の為の「航空戦闘団」の一つ、「空咲」舞台へと配属されたのがこの作品の主人公、コロウ(表紙)である。

 

「あなたは死なねばなりません」

 

その生まれにとある秘密を持ち、無能な独裁者に睨まれ。病弱な母親と別れ、偏屈な航空力学者の元で働いていた彼女は死を望まれ。自身の死に場所として空を求めた。

 

《この隊に来たからには、お前がどう死ぬかは俺が決める》

 

 しかし、舞台の隊長である男、カノ―はそれを許さなかった。数多の曲者かつエース揃いな舞台を纏め、上の意向に逆らい損耗率を低く保ち続ける彼は、自身も含めコロウにお目付け役を付け、死ぬことを許さなかった。

 

お目付け役はいずれも押しも押されぬエース揃い。結果的に死ぬような真似は出来ず、それどころかエースの傍で気が付かぬ間に彼等の技術を吸収し。自身もまた、万能のエースとして成り上がっていく。

 

 常に相手国に一手先を往かれ、すぐに今までの戦術が通用しなくなり、更には相手国がどんどんと新型機を投入し。日に日に厳しさを増し、どんどんと追い込まれていく戦果。その最中、腐敗した国を打破する為に敵の超大型爆撃機が首都に迫る中、首都に軟禁された先代の独裁者を救出する作戦は幕を開けていく。

 

「まだ私がいます。私が任務を完遂します」

 

「あれだ。あれを撃ち墜とすために私はここへ来た」

 

カノ―により眠らされ出遅れ。それでも、彼女は空へ上るのを希望する。

 

 それは最早、死ぬために非ず。「大空の君」として希望として祭り上げられ。それでも自分を守ってくれた、愛してくれた人達の為に。完成したばかりの試作機を狩り、コロウは空へと舞い上がる。先人達から受け継いだ力をその手に、果敢に不沈の爆撃機へと挑んでいく。

 

その先に待っているもの、彼女が手に入れたもの。それは是非、皆様の目で見届けてみてほしい。

 

日記と言う形を取って、どこか俯瞰的に描かれる絶望の中。数多のパイロットの命が輝き、散っていく中で彼等の思いが空に響くこの作品。

 

故に何処か切なくも熱く。正しく一種の浪漫に溢れている作品なのである。

 

圧倒的な空戦描写を拝んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。