前巻感想はこちら↓
読書感想:公務員、中田忍の悪徳 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、この作品について私は前巻の感想で、まるでフラフラダンスのような「中田忍ワールド」が如き作品であると語ったのを覚えている。実際、この作品に流れる空気感は独特の物であり、それは変わることは無い。それどころか寧ろ、その深淵が更に深まっていくのが今巻なのである。
「俺が死んだらどうする」
普段通りに区役所に勤め、部下達から陰口をたたかれても機械的に仕事に勤め、時に新入りである茜に支援の別の側面を見せ。そんないつも通りの整理整頓された日常の中に入り込んだ異分子、異世界エルフのアリエル。既に最早何処かへ放り出す訳にもいかず、早くも片言まで覚えだしたアリエルをかくまい続けると言う悪徳を犯し、自責の念に苛まれながら。今日もまた仕事に励む中、唐突な終わりが来ることも予想しアリエルがこの世界で自立できるように手はずを探す忍。
「変わらないでください、忍センパイ」
そんな彼を安っぽい感情に振り回されていると言う由奈は、前の忍が良い、変わらないでと願う。
「そうだね。僕は忍に、変わってほしいと思ってる」
逆に義光が願うのは変わる事。守る幸せの中に自分の幸せも含め、享楽に溺れてほしいと言う願い。
願いと願いの板挟みの間、ふと時に心を揺らしながらもいつも通りに変わらずに。しかし、小さな波乱は時に突然訪れる。忍の元へやってきた彼を何故か「ぱぱ」と呼ぶ謎の少女。その訪問が、新たな波乱を生んでいく。
きちんとした誘導尋問と心当たりにより、彼女が忍の友人夫婦の娘である星愛姫(読:ティアラ)であると判明し。しかしその両親に連絡を取ろうとしてみれば、父親の方である撤平の方が忍の家を訪ねると言う事態が発生し、彼にまでアリエルの存在が露呈してしまう。
目撃することになる、友人夫婦の諍い。最初はまともだったはずなのに変わってしまった夫婦の姿。その姿を見、絆を繋ぎ直す為に少しだけ手を貸す事になり。何とか無事に、クリスマスを乗り越えて。
「俺は俺の信じるべくを、信じた通りにやり通す。文句を言うなら君が合わせろ」
けれどいつも通り、しかしその端々に照れ隠しと言った人間らしい表情をのぞかせて。それは嬉しき変化か、悲しき変化か。それこそはアリエルが齎した変化なのか。
だが、彼等はまだ知らない。更に規模の大きな不穏の予感が既にそこまで迫っている事を。
「中田忍ワールド」の深淵が更に深まり、より混沌に、よりシュールに染まっていく今巻。
前巻を楽しまれた読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
公務員、中田忍の悪徳 (2) (ガガガ文庫 た 9-2) | 立川 浦々, 楝蛙 |本 | 通販 | Amazon